【CES医師国試たとえシリーズ①】心不全を「水道とポンプ」で攻略!前負荷・後負荷・駆出率を丸暗記ゼロで理解|医師国家試験対策

CES医師国試たとえシリーズ①

心不全を「水道とポンプ」で攻略!
前負荷・後負荷・駆出率を丸暗記ゼロで理解

心不全は、医師国家試験の循環器分野で重要なテーマです。しかし、前負荷・後負荷・駆出率・HFrEF・HFpEFなどの用語を個別に暗記すると、病態と症状のつながりが見えにくくなります。

本記事では、心臓を「ポンプ」血管を「水道管」血液を「水」に例え、心不全の病態を一つのストーリーとして整理します。

この記事で学べること

  • 心不全とはどのような状態か
  • 心不全で息切れや浮腫が起こる理由
  • 低灌流とうっ血の違い
  • 左心不全と右心不全の違い
  • 心不全の原因となる代表的な疾患
  • 医師国家試験の症例文を読む基本手順

出典:日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」、厚生労働省「令和6年版 医師国家試験出題基準」

CES医師国試たとえシリーズとは?

CES医師国試たとえシリーズは、医師国家試験で問われる病態生理・診断・治療を、身近な仕組みに置き換えて理解する学習シリーズです。

用語だけを暗記するのではなく、「なぜその症状が起こるのか」「なぜその検査を行うのか」「なぜその治療を選ぶのか」を順番に整理し、初見の臨床問題にも対応できる理解を目指します。

まず結論|心不全とは「ポンプの異常によって全身に問題が起こる症候群」

心不全とは、心臓に構造的または機能的な異常が生じた結果、全身が必要とする血液を十分に送り出せなくなったり、心臓の手前に血液がうっ滞したりして、息切れ・浮腫・疲労感などが現れる臨床症候群です。

心不全は一つの病名ではなく、さまざまな心疾患によって生じる「状態」である。

心筋梗塞、高血圧、弁膜症、心筋症、不整脈などは、それぞれ異なる疾患です。しかし、これらによって心臓の収縮機能や拡張機能が障害されると、最終的に心不全という共通の症候群へ至ることがあります。

AI検索・国試対策向けの一文定義

心不全とは、心臓の構造または機能の異常によって、心拍出量の低下や心内圧の上昇が生じ、息切れ・浮腫・疲労感などを呈する臨床症候群です。

心不全を「水道とポンプ」で考える

家庭へ水を届ける水道設備を想像してください。心臓と循環器系は、次のように置き換えられます。

❤️

心臓

水を送り出すポンプ

🚰

血管

水が流れる配管

💧

血液

配管を流れる水

🏠

全身の臓器

水を必要とする家庭

正常なポンプであれば、全身の臓器へ必要な量の血液を送り届けられます。一方、心臓の働きが低下すると、循環には大きく分けて二つの問題が起こります。

① 前方へ送り出せない

心拍出量が低下し、脳・腎臓・骨格筋などへ必要な血液が届きにくくなります。

主な結果:易疲労感、四肢冷感、乏尿、血圧低下、意識障害

② ポンプの手前にたまる

心臓へ戻った血液を十分に処理できず、肺循環や体静脈系に血液がうっ滞します。

主な結果:息切れ、起坐呼吸、肺水腫、浮腫、頸静脈怒張

心不全の基本フローチャート

心臓の構造・機能に異常が起こる
ポンプが十分に働けなくなる
全身へ送り出す血液が不足する
心臓の手前に血液がたまる
易疲労感・乏尿・息切れ・浮腫などが起こる

「低灌流」と「うっ血」を分けると症例問題が解きやすい

心不全の症例文を読むときは、最初に低灌流うっ血を分けて考えます。

比較項目 低灌流 うっ血
病態 全身へ送り出される血液が不足する 心臓の手前に血液がたまる
水道のイメージ 蛇口まで十分な水が届かない 配管内で水が渋滞する
主な症状・所見 易疲労感、冷感、乏尿、意識障害、血圧低下 呼吸困難、湿性ラ音、頸静脈怒張、浮腫、体重増加
国試での見方 重要臓器へ血液が届いているかを確認する 肺や全身静脈に血液がたまっているかを確認する
👨‍⚕️

講師コメント

心不全の患者を見たら、「血液を送り出せていないのか」「血液がたまっているのか」「両方なのか」を確認します。この視点を持つと、症状・身体所見・検査・治療を一つの流れで考えられます。

左心不全と右心不全|どこに血液がたまるかで判断する

左心不全と右心不全は、障害された心室の名前だけを覚えるのではなく、その心室の手前にある循環へ血液がたまると理解します。

比較項目 左心不全 右心不全
主なうっ滞部位 肺静脈・肺循環 体静脈・全身静脈系
主な症状 労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難 下腿浮腫、腹部膨満感、食欲低下、体重増加
主な身体所見 湿性ラ音、低酸素血症、肺水腫 頸静脈怒張、肝腫大、末梢浮腫、腹水
水道のイメージ 左側ポンプの手前にある肺で水が渋滞する 右側ポンプの手前にある全身静脈で水が渋滞する

医師国家試験で押さえるポイント

  • 左心不全では肺うっ血が目立つ
  • 右心不全では体静脈うっ血が目立つ
  • 左心不全が進行すると肺高血圧を介して右心系にも負担がかかる
  • 進行例では左心不全と右心不全の所見が併存する

心不全の原因となる代表的な疾患

心不全は、心臓へ負担をかけるさまざまな疾患によって起こります。国試では、心不全と診断するだけでなく、何がポンプを故障させたのかまで考える必要があります。

原因の分類 代表疾患 ポンプへの影響
虚血 心筋梗塞、虚血性心疾患 心筋が障害され、収縮力が低下する
圧負荷 高血圧、大動脈弁狭窄症 高い圧力へ血液を送り出す負担が続く
容量負荷 僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症 逆流によって心室へ過剰な血液が戻る
心筋疾患 拡張型心筋症、肥大型心筋症、心筋炎 収縮・拡張・電気的機能が障害される
不整脈 心房細動、頻脈性不整脈、高度徐脈 心拍数や心室充満が乱れ、心拍出量が低下する

Part1-①まとめ

  1. 心不全は、単一の病名ではなく、心臓の構造・機能異常によって生じる臨床症候群である。
  2. 心臓をポンプ、血管を配管、血液を水として考えると病態を理解しやすい。
  3. 心不全では、全身へ血液を送り出せない低灌流と、心臓の手前に血液がたまるうっ血が起こる。
  4. 左心不全では肺うっ血、右心不全では体静脈うっ血が目立つ。
  5. 心不全を診断した後は、虚血・圧負荷・容量負荷・心筋疾患・不整脈などの原因を考える。

Part1-①の引用文献

CES医師国試たとえシリーズ①|Part1-②

駆出率からHFrEF・HFmrEF・HFpEFを見分ける

Part1-①では、心不全を「心臓というポンプの異常によって、低灌流とうっ血が起こる臨床症候群」として整理しました。

Part1-②では、ポンプの働きを評価する代表的な指標である左室駆出率(LVEF)と、HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違いを、水道とポンプのイメージで解説します。

Part1-②で学べること

  • 左室駆出率(LVEF)の意味
  • HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違い
  • 収縮障害と拡張障害の違い
  • LVEFが正常でも心不全が起こる理由
  • LVEF分類と左右心不全の違い
  • 心不全症例を読むときの判断手順

出典:日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」、厚生労働省「令和6年版 医師国家試験出題基準」

左室駆出率(LVEF)とは?|ポンプに入った血液を何%送り出せたか

左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)とは、左室に入っていた血液のうち、1回の収縮で何%を送り出せたかを示す指標です。

左室駆出率(LVEF)

1回拍出量 ÷ 左室拡張末期容積 × 100

左室拡張末期容積は、左室が血液で満たされた時点の容量です。1回拍出量は、そのうち1回の収縮で大動脈へ送り出された血液量です。

水道とポンプで考える

ポンプのタンクへ100Lの水が入り、そのうち60Lを送り出した場合、送り出した割合は60%です。LVEFも同じように、左室へ入っていた血液の何%を送り出したかを表します。

例1

拡張末期容積 100mL

1回拍出量 60mL

LVEF 60%

例2

拡張末期容積 150mL

1回拍出量 45mL

LVEF 30%

LVEFを読むときの注意点

LVEFは「送り出した血液量」そのものではない

LVEFは、左室内にあった血液のうち何%を送り出したかという割合です。実際に送り出した血液量そのものではありません。

左室へ入る血液量が少なければ、LVEFが正常範囲でも1回拍出量が十分とは限りません。また、弁逆流がある場合は、左室から出た血液のすべてが有効に全身へ送られるとは限りません。

LVEFは心臓全体の能力を一つの数値で完全に表すものではない

  • LVEFは主に左室の収縮による駆出割合を示す
  • 拡張機能はLVEFだけでは十分に評価できない
  • 右室機能は別に評価する必要がある
  • 弁膜症や前負荷・後負荷の影響を受ける
  • LVEFが保たれていても心不全は否定できない
👨‍⚕️

講師コメント

「LVEFが正常なら心不全ではない」という考え方は誤りです。HFpEFでは、送り出す割合が保たれていても、左室が硬くなって十分に血液を受け入れられず、左室充満圧が上昇します。その結果、肺うっ血や呼吸困難が起こります。

HFrEF・HFmrEF・HFpEFの分類

心不全はLVEFを基準として、主にHFrEF・HFmrEF・HFpEFに分類されます。過去に低下していたLVEFが治療などによって改善した状態も、治療継続や再増悪予防の観点から重要です。

分類 LVEF 主な病態 ポンプのイメージ 国試での着眼点
HFrEF 40%未満 主に左室収縮機能が低下している ポンプの押し出す力が弱い 心筋梗塞後、拡張型心筋症などを背景に考える
HFmrEF 40%以上
50%未満
LVEFが軽度低下した中間領域 ポンプの押し出す力がやや弱い 症状、原因疾患、過去のLVEFを含めて判断する
HFpEF 50%以上 LVEFは保たれているが、主に拡張障害や充満圧上昇を認める 押し出す割合は保たれるが、タンクが硬く十分に水が入らない 高齢、高血圧、心房細動、肥満、糖尿病、CKDなどに注目する
LVEFが改善した心不全 過去の低値から改善 治療などにより低下していたLVEFが改善した状態 弱っていたポンプの働きが回復した 基礎疾患や再増悪リスクが消えたとは限らない

出典:日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」

LVEFが改善しても「完治」とは限らない

低下していたLVEFが改善しても、原因となった心筋疾患や再増悪のリスクが完全に消失したとは限りません。現在のLVEFだけでなく、過去のLVEF、治療内容、原因疾患を確認します。

HFrEFは「押し出せない」、HFpEFは「受け入れられない」

HFrEF|収縮の問題

左室の収縮力が低下し、拡張期に入ってきた血液を十分に送り出せません。

左室へ血液が入る

収縮力が弱い

血液を十分に送り出せない

LVEFが低下する

HFpEF|拡張の問題

左室が硬くなり、拡張期に十分な血液を受け入れにくくなります。送り出す割合が保たれていても、左室充満圧は上昇します。

左室が硬くなる

血液が十分に入らない

左室充満圧が上昇する

肺うっ血が起こる

HFpEFでLVEFが保たれる理由

HFpEFでは左室へ入る血液量が少なくても、そのうち一定の割合を送り出せるため、LVEFは保たれることがあります。しかし、実際の1回拍出量が十分とは限らず、左室充満圧の上昇によって肺うっ血が起こります。

HFrEFとHFpEFの特徴を比較

比較項目 HFrEF HFpEF
LVEF 40%未満 50%以上
中心となる病態 左室収縮機能の低下 左室拡張障害・充満圧上昇
左室のイメージ 拡大し、押し出す力が低下したポンプ 肥厚・硬化し、広がりにくいタンク
代表的背景 心筋梗塞後、拡張型心筋症など 高齢、高血圧、心房細動、肥満、糖尿病、CKDなど
共通する症状 息切れ、浮腫、易疲労感、運動耐容能低下 息切れ、浮腫、易疲労感、運動耐容能低下
診断上の注意 LVEF低下だけで原因疾患までは決まらない LVEFが正常範囲でも心不全を否定できない
評価で重要な項目 LVEF、壁運動、心室径、原因疾患 左室肥大、左房拡大、拡張機能、充満圧、併存疾患

ここは医師国家試験で狙われやすい

  • HFrEFは主に収縮機能障害として整理する
  • HFpEFはLVEFが保たれていても心不全である
  • HFpEFでは左室拡張障害と左室充満圧上昇を考える
  • HFrEFとHFpEFは症状だけでは区別できない
  • LVEF、心エコー所見、BNP/NT-proBNP、併存疾患を総合する

心不全分類の判断フローチャート

息切れ・浮腫・易疲労感などから心不全を疑う
病歴・身体所見・心電図・胸部X線・BNP/NT-proBNPを評価
心エコーでLVEF・壁運動・弁膜症・拡張機能などを確認
LVEF 40%未満

HFrEF

LVEF 40~49%

HFmrEF

LVEF 50%以上

HFpEFを検討

過去のLVEF、原因疾患、うっ血、併存疾患を含めて最終判断

HFpEFはLVEFだけでは診断できない

LVEFが50%以上であることだけでHFpEFと確定するわけではありません。心不全症状や身体所見に加え、BNP/NT-proBNP、左房拡大、左室肥大、拡張機能、左室充満圧を示唆する所見などを総合して判断します。

LVEF分類と左心不全・右心不全は別の分類軸

HFrEF・HFmrEF・HFpEFは、主に左室駆出率による分類です。一方、左心不全・右心不全は、主にどの心系の障害とうっ血が目立つかによる分類です。

LVEFによる分類

  • HFrEF
  • HFmrEF
  • HFpEF

左室が血液を送り出す割合を基準に分類します。

障害部位・うっ血部位による分類

  • 左心不全
  • 右心不全
  • 両心不全

肺循環と体静脈系のどちらにうっ血が目立つかで整理します。

複数の分類へ同時に該当する

  • HFrEFかつ左心不全
  • HFrEFかつ両心不全
  • HFpEFかつ左心不全
  • HFpEFかつ両心不全

ひっかけ対策

  • HFpEFだから左心不全ではない、とはいえない
  • 右心不全だからLVEFが必ず低い、とはいえない
  • 左右心不全とLVEF分類を混同しない

心不全の症例問題を解く5ステップ

STEP 1:
息切れ、浮腫、体重増加、易疲労感などから心不全を疑う

STEP 2:
肺うっ血、体静脈うっ血、低灌流のどれが目立つか確認する

STEP 3:
心エコーのLVEFからHFrEF・HFmrEF・HFpEFを整理する

STEP 4:
心筋梗塞、高血圧、弁膜症、心筋症、不整脈などの原因を探す

STEP 5:
急性か慢性か、呼吸不全やショックがあるかを判断して治療へ進む

🧑‍🎓

受験生:
LVEFが書かれていたら、すぐにHFrEFかHFpEFを選べばよいですか?

👨‍⚕️

講師:
LVEFは重要ですが、それだけで心不全の全体像は決まりません。症状、うっ血、低灌流、弁膜症、過去のLVEF、原因疾患まで確認してください。特にHFpEFは、LVEFが保たれているだけでは診断できません。

Part1-②確認テスト

問題をクリックすると、答えと解説が開きます。

問1.LVEFが55%であれば、心不全を否定できる。
答え:誤り。
HFpEFではLVEFが保たれていても、左室拡張障害や左室充満圧上昇によって心不全が起こります。
問2.HFrEFは、主に左室収縮機能の低下を反映する。
答え:正しい。
HFrEFではLVEFが40%未満であり、主に左室収縮機能の低下を反映します。
問3.HFpEFでは、左室充満圧を評価する必要はない。
答え:誤り。
HFpEFでは左室が硬く、拡張期に十分な血液を受け入れにくいため、左室充満圧上昇の評価が重要です。
問4.HFmrEFは、LVEFが40%以上50%未満の心不全である。
答え:正しい。
HFmrEFは、HFrEFとHFpEFの中間に位置するLVEF軽度低下心不全として整理されます。
問5.右心不全では、LVEFが必ず40%未満となる。
答え:誤り。
右心不全は右心系の障害や体静脈うっ血を示す分類であり、左室駆出率による分類とは別です。
問6.HFrEFとHFpEFでは、息切れや浮腫などの症状だけで明確に区別できる。
答え:誤り。
両者とも息切れ、浮腫、易疲労感などを呈します。心エコーやLVEF、拡張機能、原因疾患を含めて判断します。
問7.低下していたLVEFが改善すれば、心不全再増悪のリスクも必ず消失する。
答え:誤り。
LVEFが改善しても、基礎疾患や再増悪リスクが残ることがあります。過去のLVEFと治療経過を確認します。
問8.HFpEFでは、高血圧、心房細動、肥満、糖尿病、CKDなどの併存疾患が重要である。
答え:正しい。
HFpEFは病態が多様であり、これらの併存疾患が発症や増悪に関係します。

Part1-②まとめ

  1. LVEFは、左室内の血液のうち1回の収縮で何%を送り出したかを示す割合である。
  2. LVEFは実際に送り出した血液量そのものではなく、心機能のすべてを一つの数値で表すものでもない。
  3. HFrEFはLVEF40%未満で、主に左室収縮機能低下を反映する。
  4. HFmrEFはLVEF40%以上50%未満の中間領域である。
  5. HFpEFはLVEF50%以上でも、拡張障害や左室充満圧上昇によって心不全を起こす。
  6. LVEFが保たれているだけで心不全を否定することはできない。
  7. HFrEF・HFmrEF・HFpEFと、左心不全・右心不全は別の分類軸である。
  8. 症例問題では、症状、うっ血、低灌流、LVEF、原因疾患、急性度の順に評価する。

Part1-②の引用文献

CES医師国試たとえシリーズ①|Part2

前負荷・後負荷・Frank-Starling機序・RAA系を「水道設備」で攻略

Part1では、心不全の基本病態とLVEFによる分類を整理しました。Part2では、心不全の病態生理と治療をつなぐ重要概念である、前負荷・後負荷・Frank-Starling機序・交感神経系・RAA系・BNP/NT-proBNPを解説します。

これらを個別に暗記する必要はありません。心臓をポンプ、血管を配管、血液を水として考えると、「ポンプへ入る水量」「出口の抵抗」「流量を維持する自動制御装置」として一本の流れで理解できます。

Part2で学べること

  • 前負荷と後負荷の違い
  • 前負荷・後負荷が増える代表疾患
  • Frank-Starling機序の意味
  • 交感神経系とRAA系の代償作用
  • 短期的な代償が長期的な悪循環へ変わる理由
  • BNPとNT-proBNPの違い
  • BNP/NT-proBNPを解釈するときの注意点

出典:日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」、日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版」

目次


  1. 前負荷・後負荷・代償機構の結論

  2. 前負荷とは

  3. 後負荷とは

  4. 前負荷と後負荷の比較

  5. Frank-Starling機序

  6. 心拍出量と頻脈

  7. 心不全の代償機構

  8. 交感神経系の働き

  9. RAA系の働き

  10. 心不全の悪循環

  11. BNP・NT-proBNPとは

  12. BNPを含む心不全評価フロー

  13. 確認テスト

  14. Part2のまとめ

まず結論|前負荷・後負荷・代償機構の関係

  • 前負荷は、心室が収縮する直前に心筋がどの程度引き伸ばされているかを示す。
  • 後負荷は、心室が血液を送り出すときに打ち勝たなければならない抵抗を示す。
  • Frank-Starling機序により、一定の範囲では心室へ戻る血液が増えるほど、収縮力と1回拍出量が増える。
  • 心拍出量が低下すると、交感神経系とRAA系が活性化し、心拍数・血管抵抗・循環血液量を増やして循環を維持しようとする。
  • 代償機構は短期的には血圧と臓器血流を保つが、長期的には前負荷・後負荷・心筋負荷を増やし、心不全を悪化させる。

前負荷とは?|ポンプへ入ってくる「水の量」

前負荷とは、心室が収縮を始める直前に心筋へかかっている負荷です。より厳密には、拡張末期に心筋線維がどの程度引き伸ばされているかを表します。

医師国家試験対策では、前負荷を「心臓へ戻ってきて、心室へ入っている血液量」とイメージすると整理しやすくなります。

前負荷が増える流れ

静脈還流量が増える

心室へ入る血液量が増える

拡張末期容積が増える

心筋線維が引き伸ばされる

前負荷が増える

前負荷を増やす主な要因

  • 静脈還流量の増加
  • 循環血液量の増加
  • ナトリウム・水分貯留
  • 腎機能低下
  • 静脈収縮
  • 弁逆流などによる容量負荷

前負荷を減らす主な要因

  • 利尿による体液量減少
  • 静脈拡張
  • 出血
  • 脱水
  • 静脈還流量の低下

前負荷は低ければ低いほどよいわけではない

心不全では前負荷が過剰となり、肺うっ血や浮腫を生じていることがあります。一方、前負荷を下げすぎると、左室へ入る血液が不足し、1回拍出量や血圧が低下することがあります。治療では前負荷を適切な範囲へ調整することが重要です。

後負荷とは?|ポンプの出口にかかる「配管の抵抗」

後負荷とは、心室が血液を送り出すときに打ち勝たなければならない抵抗です。

水道に例えると、ポンプの出口につながる配管が細い、または配管内の圧力が高いほど、ポンプは水を送り出すために強い力を必要とします。

後負荷が増える流れ

動脈圧・血管抵抗が上昇する

ポンプの出口から水が出にくくなる

心室はより強く収縮する必要がある

心筋酸素需要と心負荷が増える

左室後負荷を増やす状態

  • 高血圧
  • 末梢血管抵抗の上昇
  • 大動脈弁狭窄症
  • 大動脈の高度な狭窄・閉塞

右室後負荷を増やす状態

  • 肺高血圧
  • 肺血栓塞栓症
  • 慢性肺疾患による肺血管抵抗上昇
  • 肺動脈弁狭窄症

圧負荷が続くと心肥大につながる

高血圧や弁狭窄によって後負荷が増えた状態が続くと、心室は高い圧力へ血液を送り出す必要があります。その結果、代償的な心筋肥大が起こり、長期的には拡張障害や心不全につながることがあります。

前負荷と後負荷の違いを比較

比較項目 前負荷 後負荷
基本的な意味 収縮直前に心筋へかかる伸展負荷 血液を駆出するときに打ち勝つべき抵抗
水道のイメージ ポンプへ入る水の量 ポンプ出口の配管抵抗
主な関連要素 静脈還流、拡張末期容積、心室充満 動脈圧、血管抵抗、弁狭窄
増加する代表例 体液貯留、静脈還流増加、弁逆流 高血圧、大動脈弁狭窄、肺高血圧
過剰な場合 肺うっ血、浮腫、心室充満圧上昇 駆出障害、心筋酸素需要増加、心肥大
治療の方向 体液量・静脈還流を適正化する 血圧・血管抵抗・原因疾患を是正する
🧑‍🎓

受験生:
前負荷と後負荷は、どちらも心臓にかかる負担なので混乱します。

👨‍⚕️

講師:
前負荷は「ポンプへ入る水量」、後負荷は「ポンプから出すときの抵抗」です。「入る量」と「出す抵抗」に分ければ、症例問題でも判断しやすくなります。

Frank-Starling機序とは?|水が入るほど押し出す力も強くなる

Frank-Starling機序とは、一定の生理的範囲では、心室へ流入する血液量が増えて心筋線維が伸展するほど、次の収縮が強くなり、1回拍出量が増える仕組みです。

静脈還流が増える

拡張末期容積が増える

心筋線維が適度に伸びる

収縮力が増す

1回拍出量が増える

この仕組みによって、心臓は静脈から戻ってきた血液量の変化に応じて、送り出す血液量を調節できます。また、左右の心室から送り出される血液量を長期的に一致させるうえでも重要です。

正常な心臓

前負荷が適度に増えると、収縮力と1回拍出量が増え、入ってきた血液を効率よく送り出せます。

心不全の心臓

前負荷を増やしても拍出量の増加が乏しく、心室充満圧や静脈圧だけが上昇し、肺うっ血や浮腫が悪化しやすくなります。

ここは医師国家試験で狙われやすい

Frank-Starling機序は、前負荷を増やせば無制限に心拍出量が増えるという意味ではありません。

収縮機能が低下した心不全では、過剰な容量負荷を加えても拍出量は十分に増えず、肺うっ血や浮腫を悪化させます。

心拍出量は「1回に送る量×1分間の回数」

心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数

1回拍出量が低下すると、体は心拍数を増やすことで心拍出量を維持しようとします。しかし、心拍数が過度に増えると拡張期が短くなり、心室へ血液が入る時間や冠動脈へ血液が流れる時間が減少します。

頻脈は短期的には代償、長期的には負担

頻脈は心拍出量を維持する代償反応ですが、持続すると拡張期短縮、心筋酸素需要増加、不整脈、心筋障害につながります。

心不全の代償機構|体の「自動制御装置」が作動する

心拍出量が低下すると、体は脳・腎臓・心臓などの重要臓器へ血液を送り続けるため、自動的に循環を立て直そうとします。

主な代償機構は、交感神経系、RAA系、バソプレシンです。一方、これらに対抗して心臓の負担を軽減しようとするのが、ANPやBNPなどのナトリウム利尿ペプチドです。

代償機構 主な作用 短期的な利点 長期的な問題
交感神経系 心拍数増加、収縮力増強、末梢血管収縮 心拍出量と血圧を維持する 心筋酸素需要増加、不整脈、後負荷増加、心筋障害
RAA系 血管収縮、ナトリウム・水分保持、アルドステロン分泌 循環血液量と血圧を維持する 前負荷・後負荷増加、うっ血、線維化、心室リモデリング
バソプレシン 腎集合管で水の再吸収を促進する 循環血液量を維持する 水貯留、希釈性低ナトリウム血症、うっ血悪化
ANP・BNP ナトリウム利尿、利尿、血管拡張、RAA系抑制 体液量と心負荷を軽減する 心不全が進行すると代償しきれなくなる

交感神経系|ポンプの回転数と配管圧を上げる

心拍出量と血圧が低下すると、圧受容器反射などを介して交感神経系が活性化します。

心拍出量・血圧低下

交感神経系が活性化

心拍数増加・収縮力増強・末梢血管収縮

血圧と臓器灌流を維持

短期的な効果

  • 心拍数を増やす
  • 心収縮力を高める
  • 血圧と重要臓器血流を保つ

長期的な悪影響

  • 頻脈と不整脈
  • 心筋酸素需要の増加
  • 血管収縮による後負荷増加
  • 心筋障害とリモデリング

RAA系|「水を増やし、配管を締める」仕組み

RAA系とは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系のことです。

心拍出量が低下して腎血流が減少すると、腎臓は「循環血液量が足りない」と判断し、レニン分泌を増やします。

心拍出量・腎血流低下

腎臓からレニン分泌

アンジオテンシンⅡ増加

血管収縮+アルドステロン分泌

ナトリウム・水分保持

血圧と循環血液量を維持

アンジオテンシンⅡ

  • 血管を収縮させる
  • 後負荷を増加させる
  • アルドステロン分泌を促進する
  • 心筋肥大や線維化に関与する

アルドステロン

  • ナトリウム再吸収を促進する
  • 水分保持を増やす
  • 前負荷を増加させる
  • 心筋線維化に関与する

心不全では「循環を助ける仕組み」が悪循環を作る

RAA系による水分保持は前負荷を増やし、血管収縮は後負荷を増やします。その結果、弱った心臓はさらに血液を送り出しにくくなり、肺うっ血や浮腫、心筋線維化、心室リモデリングが進行します。

心不全の悪循環をフローチャートで整理

心機能が低下する
心拍出量・血圧・腎血流が低下する
交感神経系活性化

頻脈・収縮力増強・血管収縮

RAA系活性化

水分保持・血管収縮

前負荷・後負荷・心筋酸素需要が増加する
うっ血・心筋障害・心室リモデリングが進行する
心不全がさらに悪化する

BNP・NT-proBNP|心臓が出す「水を減らしてほしい」という警報

心室に容量負荷や圧負荷がかかり、心筋の壁応力が増えると、BNP関連ペプチドの産生・分泌が増加します。

水道設備に例えると、心臓が全身へ送る「水がたまりすぎているので、水を外へ出し、配管を広げてほしい」という警報です。

BNPの主な生理作用

  • ナトリウム利尿
  • 利尿
  • 血管拡張
  • RAA系の抑制
  • 交感神経系への拮抗

臨床での主な利用

  • 心不全診断の補助
  • 重症度評価の参考
  • 治療経過の評価
  • 予後評価の参考

BNPとNT-proBNPの違い

比較項目 BNP NT-proBNP
生理活性 あり 生理活性を持たない
由来 前駆体から切り出される活性型ペプチド BNPと同時に生じる非活性型ペプチド断片
半減期 NT-proBNPより短い BNPより長い
腎機能の影響 受ける より強く受ける場合がある
数値の扱い BNP固有の基準で評価する BNPとは数値尺度が異なり、同じ数値として比較しない

BNP/NT-proBNPだけで心不全を確定しない

BNP/NT-proBNPは心不全診療で有用ですが、心不全以外の病態や患者背景によっても変動します。

  • 高値になりやすい要因:高齢、腎機能低下、心房細動など
  • 相対的に低値になりやすい要因:肥満など

病歴、症状、身体所見、心電図、胸部X線、心エコーなどと組み合わせて解釈する必要があります。

発展ポイント|ARNI使用中のBNPとNT-proBNP

ARNIに含まれるネプリライシン阻害作用はBNPの分解に影響するため、ARNI開始後はBNPとNT-proBNPが同じように変化するとは限りません。両者は完全に同じ物質ではなく、数値尺度も異なることを押さえておきましょう。

BNP/NT-proBNPを含む心不全評価フロー

息切れ・浮腫・体重増加・易疲労感など
病歴・身体所見・心電図・胸部X線を評価
BNPまたはNT-proBNPを測定
年齢・腎機能・肥満・心房細動などの影響を確認
心エコーでLVEF・弁膜症・壁運動・拡張機能などを評価
原因疾患・増悪因子・重症度を総合的に判断

Part2確認テスト

問題をクリックすると、答えと解説が開きます。

問1.前負荷とは、心室が血液を駆出するときに打ち勝つべき動脈側の抵抗である。
答え:誤り。
これは後負荷の説明です。前負荷は、収縮直前の心筋伸展や心室充満に関係します。
問2.大動脈弁狭窄症では、左室後負荷が増加する。
答え:正しい。
左室は狭窄した大動脈弁を越えて血液を送り出す必要があり、左室への圧負荷が増加します。
問3.肺血栓塞栓症では、右室後負荷が増加する。
答え:正しい。
肺血管抵抗が上昇し、右室が肺動脈へ血液を送り出しにくくなります。
問4.Frank-Starling機序では、前負荷が増加すれば無制限に1回拍出量が増加する。
答え:誤り。
1回拍出量が増えるのは一定の生理的範囲です。心不全では、過剰な前負荷が拍出量を十分に増やさず、うっ血を悪化させることがあります。
問5.心不全では、RAA系の活性化によってナトリウムと水分の排泄が促進される。
答え:誤り。
RAA系はナトリウムと水分の保持を促進し、循環血液量を増やします。
問6.交感神経系の活性化は、短期的には心拍出量や血圧の維持に働く。
答え:正しい。
心拍数増加、収縮力増強、血管収縮によって循環を維持します。ただし、長期的には心筋負荷を増加させます。
問7.BNP/NT-proBNPが高値であれば、他の所見に関係なく心不全と確定できる。
答え:誤り。
年齢、腎機能、心房細動などでも上昇するため、病歴、身体所見、心電図、画像検査と合わせて判断します。
問8.肥満患者では、心不全があってもBNP/NT-proBNPが相対的に低値となることがある。
答え:正しい。
肥満ではナトリウム利尿ペプチド値が相対的に低くなることがあり、低値だけで心不全を否定しないことが重要です。
問9.BNPとNT-proBNPは、同じ数値基準で比較できる。
答え:誤り。
BNPとNT-proBNPは半減期や代謝経路、数値尺度が異なります。同じ数値として直接比較することはできません。

Part2まとめ

  1. 前負荷は、心室へ入る血液量と収縮前の心筋伸展に関係する。
  2. 後負荷は、心室が血液を駆出するときに打ち勝つべき抵抗である。
  3. 左室後負荷は高血圧や大動脈弁狭窄症、右室後負荷は肺高血圧や肺血栓塞栓症で増加する。
  4. Frank-Starling機序により、一定の範囲では前負荷の増加に伴って1回拍出量が増える。
  5. 心不全の心臓では、過剰な前負荷は拍出量を十分に増やさず、うっ血を悪化させる。
  6. 交感神経系とRAA系は短期的に循環を維持するが、長期的には心不全を悪化させる。
  7. BNPはナトリウム利尿、利尿、血管拡張などによって心負荷を軽減する方向へ働く。
  8. BNP/NT-proBNPは心不全の診断・重症度・経過評価に有用だが、患者背景と他の検査を合わせて評価する。

Part2の引用文献

本Partの医学的記述は、上記の日本循環器学会・日本心不全学会および厚生労働省の公開資料を確認して作成しています。 :contentReference[oaicite:0]{index=0}

CES医師国試たとえシリーズ①|Part3

心不全治療を「水を抜く・出口を広げる・ポンプを守る」で攻略

Part1では心不全の基本病態とLVEF分類、Part2では前負荷・後負荷・Frank-Starling機序・交感神経系・RAA系・BNPを整理しました。

Part3では、これらの病態生理を治療へつなげます。薬剤名だけを暗記せず、「たまった水を抜く」「出口の抵抗を下げる」「ポンプの劣化を防ぐ」「故障の原因を直す」という4つの目的から考えましょう。

Part3で学べること

  • 急性心不全の初期対応
  • うっ血と低灌流による治療の違い
  • 利尿薬・血管拡張薬・強心薬の使い分け
  • 慢性HFrEFの基本薬
  • HFpEFの治療方針
  • LVEFが改善した心不全の考え方
  • 心不全の非薬物療法と疾病管理
  • 医師国家試験での治療選択手順

出典:日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」、厚生労働省「令和6年版 医師国家試験出題基準」

目次


  1. 急性期と慢性期の治療目標

  2. 急性心不全の初期評価

  3. 急性心不全の初期対応フロー

  4. 酸素投与・NPPV

  5. 急性心不全の治療比較

  6. 心不全の増悪因子

  7. 慢性HFrEFの基本4系統

  8. HFrEF治療薬の比較

  9. HFpEFの治療

  10. LVEFが改善した心不全

  11. 非薬物療法と包括的管理

  12. 急性心不全・HFrEF・HFpEFの比較

  13. 確認テスト

  14. 記事全体の結論

  15. 心不全のFAQ

  16. CES医師国試予備校

  17. 引用文献・参考文献

まず結論|急性期と慢性期では治療の優先順位が異なる

急性非代償性心不全

呼吸と循環を安定させ、肺うっ血・体うっ血・低灌流を改善します。同時に、急性冠症候群、不整脈、感染症などの増悪因子を探して治療します。

慢性心不全

症状とうっ血を管理しながら、心不全入院や心血管イベントを減らし、生命予後・運動耐容能・生活の質の改善を目指します。

急性心不全|最初に確認するのは呼吸不全とショック

急性心不全では、薬剤を選ぶ前に気道・呼吸・循環を評価します。特に重要なのが、低酸素血症と心原性ショックの有無です。

急性心不全を疑う

意識・気道・呼吸・循環を確認

低酸素血症・呼吸不全はあるか

低血圧・低灌流・心原性ショックはあるか

うっ血の程度と増悪因子を評価

初期評価で確認する項目

評価項目 主な確認内容 国試での意味
バイタルサイン 意識、呼吸数、SpO₂、血圧、脈拍、体温 呼吸不全・ショック・感染症・不整脈を評価する
うっ血所見 起坐呼吸、湿性ラ音、頸静脈怒張、浮腫、体重増加 肺うっ血・体静脈うっ血の程度を判断する
低灌流所見 四肢冷感、乏尿、意識障害、乳酸上昇 低心拍出・心原性ショックを疑う
基本検査 心電図、胸部X線、心エコー、血液検査 原因、LVEF、弁膜症、肺うっ血、臓器障害を評価する
増悪因子 虚血、不整脈、感染症、貧血、服薬中断、塩分過多など 症状改善だけでなく原因治療へつなげる

急性心不全の初期対応フローチャート

呼吸困難・肺うっ血・浮腫などを認める
呼吸不全と心原性ショックを優先して評価
低酸素血症・呼吸不全

酸素投与を検討

必要に応じてNPPV・気管挿管

低血圧・低灌流

原因と血行動態を評価

強心薬・昇圧薬・補助循環を検討

うっ血の程度と血圧を評価
体液貯留型のうっ血

ループ利尿薬を中心に

うっ血解除を図る

高血圧を伴う肺水腫

血圧に注意しながら

血管拡張薬を検討

虚血・不整脈・感染症などの増悪因子を治療

酸素投与とNPPV|呼吸状態に合わせて選択する

酸素投与は、低酸素血症を認める患者に行います。酸素化が保たれている患者へ、心不全という理由だけで一律に高濃度酸素を投与するものではありません。

酸素投与

  • 低酸素血症がある患者で検討する
  • SpO₂や動脈血ガスを確認する
  • 過剰な酸素投与を目的としない

NPPV

  • 急性心原性肺水腫で検討する
  • 酸素化と換気を改善する
  • 呼吸仕事量を軽減する
  • 意識・気道防御・循環動態を確認する

呼吸不全を数値だけで判断しない

酸素投与やNPPVの適応は、SpO₂、PaO₂、呼吸数だけでなく、呼吸困難の程度、努力呼吸、意識状態、血圧、循環動態などを総合して判断します。

急性心不全で用いる治療を比較

治療 水道のイメージ 主な目的 主な注意点
ループ利尿薬 たまった水を排出する 肺うっ血・浮腫・体液貯留を改善する 血圧、尿量、腎機能、Na、K、脱水を確認する
血管拡張薬 配管を広げて出口抵抗を下げる 前負荷・後負荷を軽減し、肺うっ血を改善する 低血圧、重症弁狭窄、前負荷依存状態では慎重に判断する
強心薬 ポンプの押し出す力を一時的に強める 低心拍出・組織低灌流・心原性ショックを改善する 不整脈や心筋酸素需要増加に注意し、安定例へ一律に使用しない
NPPV 肺胞を開き、呼吸を補助する 酸素化と換気を改善し、呼吸仕事量を軽減する 意識障害、気道防御困難、嘔吐、重篤な循環不全では慎重に判断する
🧑‍🎓

受験生:
急性心不全では、最初に利尿薬を選べばよいのでしょうか?

👨‍⚕️

講師:
まず呼吸不全とショックの有無を評価します。うっ血があれば利尿薬が重要ですが、低血圧や低灌流が強い患者では、単純に水を抜くと循環が悪化することがあります。

心不全を悪化させた原因を探す

利尿薬で呼吸困難や浮腫が改善しても、心不全を悪化させた原因が残れば再増悪する可能性があります。症例問題では、次の増悪因子を確認します。

虚血

急性冠症候群、心筋虚血

不整脈

心房細動、頻脈、徐脈、房室ブロック

感染症

肺炎、尿路感染症、敗血症など

血圧異常

著しい血圧上昇、過度の血圧低下

全身疾患

貧血、甲状腺機能異常、腎機能悪化

生活・服薬

服薬中断、塩分過多、水分過多、過活動

薬剤

体液貯留や腎機能悪化を招く薬剤など

肺血管疾患

肺血栓塞栓症、肺高血圧の悪化

慢性HFrEF|ポンプを守る基本の4系統

症候性HFrEFでは、禁忌や忍容性を確認しながら、心不全イベントや死亡リスクの低下が示された薬剤群を早期に組み合わせることが治療の中心です。

① ACE阻害薬・ARB・ARNI

RAA系やネプリライシン経路へ介入し、血管収縮・体液貯留・心室リモデリングを抑えます。

② β遮断薬

過剰な交感神経刺激を抑え、心拍数・心筋酸素需要・不整脈リスク・心室リモデリングを改善します。

③ MRA

アルドステロン作用を抑え、ナトリウム貯留、心筋線維化、心室リモデリングへ介入します。

④ SGLT2阻害薬

糖尿病の有無だけに限定されず、HFrEFにおける心不全イベント抑制を目的として使用されます。

基本4系統は単なる降圧薬の組み合わせではない

各薬剤群は、心不全を悪化させるRAA系、交感神経系、アルドステロン作用、腎臓・代謝系など、異なる経路へ介入します。血圧、心拍数、腎機能、電解質、うっ血状態などを確認しながら導入・調整します。

1剤を最大量にしてから次の薬を始めるとは限らない

HFrEFでは、各薬剤を順番に一つずつ完成させるのではなく、患者の血圧・心拍数・腎機能・電解質・忍容性に応じて、基本薬を早期に組み合わせる考え方が重要です。

HFrEF治療薬の国試比較表

薬剤群 主な作用 投与時の確認 国試で重要な注意点
ACE阻害薬 アンジオテンシンⅡ産生を抑え、血管収縮・体液貯留・リモデリングを抑制 血圧、腎機能、血清K 空咳、高K血症、腎機能悪化、血管性浮腫、妊娠
ARB AT₁受容体を遮断し、RAA系の作用を抑制 血圧、腎機能、血清K 高K血症、腎機能悪化、血管性浮腫、妊娠
ARNI AT₁受容体遮断とネプリライシン阻害を組み合わせる 血圧、腎機能、血清K、ACE阻害薬の使用状況 低血圧、高K血症、腎機能悪化、血管性浮腫。ACE阻害薬との切り替えに注意
β遮断薬 交感神経の過剰活性を抑える 心拍数、血圧、うっ血、伝導障害 徐脈、低血圧、房室ブロック。開始・増量時は病状安定を確認
MRA アルドステロン作用を遮断する 腎機能、血清K 高K血症、腎機能悪化。薬剤により内分泌系副作用
SGLT2阻害薬 腎・代謝・循環系へ複合的に作用し、心不全イベントを抑制 腎機能、体液量、感染症、絶食・手術予定 脱水、性器感染症、尿路感染症、正常血糖ケトアシドーシス
ループ利尿薬 ナトリウムと水分の排泄を促し、うっ血を改善 体重、尿量、腎機能、Na、K 脱水、低K血症、低Na血症、腎機能悪化

利尿薬と予後改善薬の役割を分ける

ループ利尿薬は肺うっ血や浮腫の改善に重要です。一方、HFrEFの基本4系統とは主な役割が異なります。症状を改善する薬と、長期的な心不全イベントや生命予後へ介入する薬を区別して整理しましょう。

HFpEF|SGLT2阻害薬・うっ血管理・併存疾患治療が中心

HFpEFでは、LVEFが保たれていても、左室拡張障害や充満圧上昇によって心不全症状が生じます。患者ごとに病態が異なるため、うっ血と併存疾患を個別に評価します。

  1. SGLT2阻害薬を心不全イベント抑制のために検討する
  2. うっ血があれば利尿薬で症状を改善する
  3. 高血圧、心房細動、虚血性心疾患、糖尿病、肥満、CKDなどを治療する
  4. LVEFや患者背景に応じ、RAA系阻害薬やMRAなどを個別に検討する
  5. 運動療法、疾病管理、服薬支援、再入院予防を組み合わせる

LVEFが正常範囲でも治療不要ではない

HFpEFでは、LVEFだけでなく、左室充満圧、左房拡大、左室肥大、拡張機能、BNP/NT-proBNP、うっ血所見、併存疾患を総合して診断・治療します。

LVEFが改善しても治療を自己判断で中止しない

HFrEFだった患者のLVEFが治療によって改善しても、基礎疾患や心不全再増悪のリスクが消えたとは限りません。過去のLVEFと治療経過を確認し、原則として心不全治療の継続を検討します。

LVEFが低下した心不全

標準的治療によりLVEFが改善

病態が完全に消失したとは限らない

治療継続と再増悪予防を検討

現在のLVEFだけで判断しない

国試の症例文に過去のLVEF、治療前の心エコー所見、服薬歴が書かれている場合は、現在値だけでなく治療経過を含めて判断します。

心不全は薬だけで管理する病気ではない

毎日の観察

体重、血圧、脈拍、浮腫、息切れ、服薬状況を確認します。

栄養・水分管理

塩分摂取、体液量、腎機能、低Na血症などを踏まえて個別に管理します。

運動療法

安定した慢性心不全では、心臓リハビリテーションを検討します。

併存疾患管理

高血圧、糖尿病、CKD、心房細動、貧血、睡眠呼吸障害などを管理します。

デバイス・手術

適応に応じてICD、CRT、弁膜症治療、冠血行再建などを検討します。

意思決定支援

重症度と患者の価値観に応じ、緩和ケアやACPも含めて支援します。

体重増加は心不全悪化のサインになる

短期間の体重増加は体液貯留を反映していることがあります。体重だけで判断するのではなく、息切れ、浮腫、尿量、塩分摂取、服薬状況と合わせて評価します。

急性心不全・HFrEF・HFpEFの治療を比較

比較項目 急性非代償性心不全 慢性HFrEF 慢性HFpEF
最優先 呼吸・循環の安定化 予後改善薬の導入・調整 SGLT2阻害薬、うっ血・併存疾患管理
うっ血 静注利尿薬などで改善 利尿薬を状態に応じて調整 利尿薬を状態に応じて調整
中心となる薬物治療 病態別に利尿薬・血管拡張薬・強心薬 ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬を中心に個別化
原因・併存疾患 増悪因子を迅速に治療 虚血、弁膜症、不整脈などを治療 高血圧、心房細動、肥満、CKDなどを治療
国試での第一判断 呼吸不全・ショック・血圧 基本4系統と忍容性 うっ血と併存疾患

Part3確認テスト

問題をクリックすると、答えと解説が開きます。

問1.急性心不全では、酸素化が正常でも全例に高濃度酸素を投与する。
答え:誤り。
酸素投与は低酸素血症を認める患者に行います。SpO₂だけでなく、呼吸状態や循環動態を合わせて判断します。
問2.急性心原性肺水腫で低酸素血症と強い呼吸困難がある場合、NPPVを検討する。
答え:正しい。
NPPVは酸素化・換気を改善し、呼吸仕事量を軽減します。意識、気道防御、循環動態も確認します。
問3.急性心不全では、低血圧や低灌流の有無を確認せずに利尿薬を増量する。
答え:誤り。
低血圧や低灌流が強い患者では、過度の利尿によって循環が悪化することがあります。血圧、尿量、腎機能、末梢循環を評価します。
問4.強心薬は、血行動態が安定したすべての慢性心不全患者へ使用する。
答え:誤り。
強心薬は主に低心拍出、組織低灌流、心原性ショックなどで検討します。不整脈や心筋酸素需要増加に注意が必要です。
問5.HFrEFの基本治療には、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬が含まれる。
答え:正しい。
ACE阻害薬・ARB・ARNIの系統と合わせ、異なる病態経路へ介入する基本薬として整理します。
問6.ACE阻害薬やMRAを使用する際は、腎機能と血清Kを確認する。
答え:正しい。
腎機能悪化や高K血症に注意し、開始後や増量後も経過を確認します。
問7.SGLT2阻害薬は、糖尿病を合併していない心不全患者には使用できない。
答え:誤り。
心不全に対する適応と効果は、糖尿病の有無だけで決まるものではありません。
問8.HFpEFではLVEFが保たれているため、うっ血に対する利尿薬は必要ない。
答え:誤り。
HFpEFでも肺うっ血や浮腫があれば、体液量を評価しながら利尿薬を使用します。
問9.治療によってLVEFが改善した場合、心不全治療薬は必ずすべて中止する。
答え:誤り。
LVEFが改善しても基礎疾患や再増悪リスクが残ることがあります。自己判断で中止せず、原則として治療継続を検討します。
問10.心不全では症状が改善すれば、増悪因子を調べる必要はない。
答え:誤り。
虚血、不整脈、感染症、服薬中断などの増悪因子を治療しなければ、再び心不全が悪化する可能性があります。

記事全体の結論|心不全は「水・配管・ポンプ・原因」の4方向から考える

  1. 急性心不全では、最初に呼吸不全と心原性ショックを評価する。
  2. うっ血には利尿薬を用いるが、血圧、腎機能、電解質、低灌流も確認する。
  3. 血圧が保たれた肺水腫では血管拡張薬、低心拍出・低灌流では強心薬を検討する。
  4. 慢性HFrEFでは、ACE阻害薬・ARB・ARNIの系統、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬を組み合わせる。
  5. HFpEFでは、SGLT2阻害薬、うっ血管理、併存疾患治療を中心に考える。
  6. LVEFが改善しても、基礎疾患と再増悪リスクが消えたとは限らない。
  7. 運動療法、栄養管理、服薬支援、デバイス治療などを組み合わせる。
  8. 心不全を悪化させた原因を治療しなければ、症状だけを改善しても不十分である。

心不全の医師国家試験対策FAQ

Q1.HFrEFとHFpEFの最も重要な違いは何ですか?
HFrEFはLVEFが低下した心不全で、主に左室収縮機能障害を反映します。HFpEFはLVEFが保たれていても、左室拡張障害や左室充満圧上昇によって心不全を起こします。
Q2.急性心不全では、なぜ最初に血圧を見るのですか?
血圧と組織低灌流の有無によって、安全に選べる治療が変わるためです。血圧が高い肺水腫では血管拡張薬が候補になりますが、低血圧や心原性ショックでは慎重な循環管理が必要です。
Q3.心不全では、全例に酸素を投与しますか?
全例に一律投与するわけではありません。低酸素血症、呼吸困難、呼吸数、意識状態、循環動態などを評価して酸素投与やNPPVを検討します。
Q4.HFrEFの基本4系統とは何ですか?
ACE阻害薬・ARB・ARNIの系統、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬です。血圧、心拍数、腎機能、電解質、うっ血状態などを確認しながら導入・調整します。
Q5.利尿薬は心不全の予後改善薬ですか?
ループ利尿薬は、主にうっ血や浮腫などの症状改善を目的として使用します。HFrEFの基本4系統とは役割が異なるため、症状改善薬と長期的なイベント抑制を目的とする薬を分けて整理します。
Q6.HFpEFでは何を中心に治療しますか?
SGLT2阻害薬、うっ血に対する利尿薬、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満、慢性腎臓病などの併存疾患治療を中心に考えます。
Q7.LVEFが改善したら心不全治療薬を中止できますか?
LVEFが改善しても、基礎疾患や再増悪リスクが残ることがあります。自己判断では中止せず、原則として治療継続を検討します。
Q8.医師国家試験では心不全をどの順番で考えればよいですか?
①急性か慢性か、②呼吸不全・ショックの有無、③うっ血か低灌流か、④左心系か右心系か、⑤LVEF分類、⑥原因と増悪因子、⑦適切な治療、の順に考えると整理しやすくなります。

医学情報に関する注意:
本記事は医師国家試験受験生の学習を目的として、公的機関・学会の公開資料をもとに病態と治療を整理したものです。個別患者の診断・治療は、年齢、基礎疾患、循環動態、腎機能、電解質、併用薬などによって異なります。実際の診療では最新のガイドライン等を確認し、個別に判断する必要があります。

 

 

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引用文献

  1. 日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」


    日本循環器学会公式PDF

  2. 日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版」


    日本心不全学会公式ページ

  3. 厚生労働省「令和6年版 医師国家試験出題基準」


    厚生労働省公式PDF

参考文献