【CES医師国試たとえシリーズ③】呼吸不全を「酸素工場」で攻略|Ⅰ型・Ⅱ型と換気・拡散・シャントの見分け方
呼吸不全は、医師国家試験で「わかったつもりが最も危険な」領域です。Ⅰ型とⅡ型の定義は言えるのに、症例問題になると換気障害なのか拡散障害なのかシャントなのか判断できない。A-aDO₂という言葉は知っているのに、何を意味する数字なのか説明できない。この状態で問題を解くと、選択肢の疾患名を勘で選ぶことになります。
本記事では、肺胞を「酸素交換工場」、血液を「配送トラック」に見立てて、低酸素血症のすべての機序を「工場のどの工程が止まったか」に翻訳します。この視点を持つと、PaO₂・PaCO₂・A-aDO₂の3つの数値だけで機序がほぼ確定し、酸素療法やNPPV・人工呼吸器の選択まで一本の線でつながります。最後に確認テスト5問(解答は折りたたみ式)で定着を確認してください。
① 呼吸不全は室内気でPaO₂ 60Torr以下。PaCO₂が45Torr以下ならⅠ型、45Torrを超えればⅡ型。この線引きが出発点となる。
② 機序はPaCO₂(工場の稼働量)とA-aDO₂(積み込み工程の質)の2軸で決まる。A-aDO₂正常+PaCO₂上昇なら肺は正常で肺胞低換気、A-aDO₂が開大しているならV/Qミスマッチ(肺換気量と肺血流が近郊を取れていない状態)・シャント・拡散障害のいずれかが推定される。
③ 治療は機序で選ぶ。酸素投与に反応しないならシャント、Ⅱ型で呼吸性アシドーシスがあればNPPVでの強制換気、CO₂貯留リスク例ではナルコーシス予防に目標SpO₂を88〜92%に抑える。
- 呼吸不全の定義とⅠ型・Ⅱ型の分け方
- 肺=酸素工場、血液=配送トラックに置き換える
- A-aDO₂は「積み込み工程の通信簿」
- 2軸で仕分ける:低酸素血症5つの機序
- 換気障害の分類:閉塞性と拘束性
- 代表疾患を工場で読む(COPD・ARDS・肺炎・神経筋疾患)
- 酸素療法デバイスの比較
- NPPV・人工呼吸器の適応
- 国試で狙われる引っかけポイント
- 確認テスト(全5問・解答は折りたたみ)
- よくある質問(FAQ)
呼吸不全とは、室内気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO₂)が60Torr以下となる状態を指します。この60Torrという数字は恣意的なものではなく、ヘモグロビン酸素解離曲線が急峻に下降し始める変曲点にあたります。ここを下回ると、わずかなPaO₂の低下でSaO₂(酸素飽和度)が一気に崩れる——つまり「崖」の縁にいるということです。
Ⅰ型呼吸不全:PaO₂ 60Torr以下 かつ PaCO₂ 45Torr以下
酸素は取り込めていないが、二酸化炭素は排出できている。=積み込みだけが失敗している状態。
Ⅱ型呼吸不全:PaO₂ 60Torr以下 かつ PaCO₂ 45Torrを超える
酸素も入らず、二酸化炭素も出せていない。=工場の稼働そのものが不足している状態。
また、この状態が1か月以上続くものを慢性呼吸不全と呼びます。国試では、慢性呼吸不全患者が感染などを契機に急激に悪化する「慢性呼吸不全の急性増悪」が頻出です。ベースラインのPaCO₂が高い患者では、急性増悪時の判断基準が変わってくるため、pH(呼吸性アシドーシスの有無)を必ず確認する習慣をつけてください。
肺を、酸素という商品を積み込む工場だと考えてください。空気が原料として工場に搬入され(換気)、そこへ配送トラック(肺毛細血管の血液)がやってきて、積み込み口(肺胞毛細血管膜)で商品を受け取り、全身へ出荷される。同時に、トラックが運んできた廃棄物(二酸化炭素)を工場が引き取り、搬出口から外へ捨てます。この工程のどこが止まったかを問うのが呼吸不全の問題です。
| 酸素工場 | 生体での対応 | 指標 |
|---|---|---|
| 原料の搬入・廃棄物の搬出 | 肺胞換気 | PaCO₂(換気量を映す鏡) |
| 工場の作業スペース | 肺胞 | 肺胞気酸素分圧(PAO₂) |
| 配送トラック | 肺毛細血管の血流 | 肺血流量(Q) |
| 積み込み口のコンベア | 肺胞毛細血管膜(拡散) | DLCO(肺拡散能) |
| 出荷された商品の量 | 動脈血の酸素 | PaO₂・SaO₂ |
| 工場在庫と積載量の差 | 肺胞気と動脈血の酸素分圧差 | A-aDO₂ |
最重要の原則:二酸化炭素は酸素よりはるかに拡散しやすい気体です。そのため、積み込み工程に多少の不具合があってもCO₂は問題なく搬出されます。つまりPaCO₂が上昇しているということは、積み込み工程ではなく「換気量そのもの」が足りていないという意味に、ほぼ限定されます。PaCO₂は換気量を映す鏡である——これを押さえると、Ⅱ型呼吸不全の意味が一段深く理解できます。
A-aDO₂(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)は、工場の中にある在庫(肺胞気の酸素)と、トラックが実際に積んだ量(動脈血の酸素)の差です。在庫がたっぷりあるのに積載量が少なければ、それは積み込み工程に問題があるということ。逆に、在庫自体が少ないせいで積載量も少ないなら、積み込み工程は正常です。
A-aDO₂ = PAO₂ − PaO₂
室内気(大気圧下)では、肺胞気式から PAO₂ ≒ 150 − PaCO₂ ÷ 0.8 と近似できます。したがって、
A-aDO₂ ≒ 150 − PaCO₂ ÷ 0.8 − PaO₂
正常値は若年者で10Torr前後。加齢とともに上昇し、おおむね20Torr以下が目安とされます。なお、この式は室内気(FiO₂ 0.21)でのみ成立します。酸素投与中の患者では PAO₂=150とはなりません。
計算そのものより重要なのは、「A-aDO₂が正常なら肺のガス交換機能そのものは保たれている」という解釈です。睡眠薬中毒の患者がPaO₂ 55Torr、PaCO₂ 70Torrだった場合、A-aDO₂を計算すると 150 − 87.5 − 55 ≒ 7.5 でほぼ正常。つまり肺は無傷で、単に呼吸が浅い・遅いだけ。この判断ができれば、治療の方向性(換気の補助であって酸素投与ではない)が自動的に決まります。
低酸素血症の機序は5つあり、PaCO₂とA-aDO₂の組み合わせでほぼ確定します。工場での比喩と併せて整理します。
| 機序 | 工場での例え | A-aDO₂ | 酸素投与への反応 | 代表疾患 |
|---|---|---|---|---|
| 換気血流比不均等 | 原料はあるがトラックが来ない区画と、その逆の区画が混在 | 開大 | 良好 | COPD、喘息、肺炎、肺血栓塞栓症 |
| シャント | トラックが工場を素通りして空荷のまま出荷 | 開大 | 乏しい | ARDS、無気肺、肺動静脈瘻、心内右左シャント |
| 拡散障害 | トラックへの積み込みまでの道が長い | 開大 | 良好 | 間質性肺炎、肺線維症、肺気腫 |
| 肺胞低換気 | 工場の稼働時間そのものが短い | 正常 | 良好(ただしCO₂は改善せず) | 薬物中毒、重症筋無力症、ALS、脳幹病変、高度肥満 |
| 吸入気酸素分圧の低下 | 搬入される原料そのものが薄い | 正常 | 良好 | 高地滞在、閉鎖空間での酸素欠乏 |
2軸でPaCO₂とA-aDO₂を組み合わせる
PaCO₂ 正常〜低下 + A-aDO₂ 開大 → Ⅰ型呼吸不全。V/Q不均等・シャント・拡散障害のいずれか。頻呼吸で代償している段階。
PaCO₂ 上昇 + A-aDO₂ 正常 → 純粋な肺胞低換気。肺そのものは無傷。中枢抑制・神経筋疾患・胸郭の問題を疑う。
PaCO₂ 上昇 + A-aDO₂ 開大 → 肺疾患に換気不全が重なった状態。COPD急性増悪、重症喘息、呼吸筋疲労を伴う末期のⅠ型呼吸不全。Ⅰ型からⅡ型への移行は「疲れてきた」サインであり、危険な転換点です。
シャントだけが「酸素投与に反応しにくい」点は繰り返し出題されます。トラックが工場を素通りしているのですから、工場内の在庫(FiO₂)をいくら増やしても積載量は増えません。高濃度酸素を投与してもPaO₂が上がらない症例文を見たら、まずシャントを疑う——これが解法の型です。
スパイロメトリーで問われる換気障害は、「搬入口が狭いのか(閉塞性)」「工場そのものが大きくならないのか(拘束性)」という区別です。
| 分類 | 判定基準 | 工場での例え | 代表疾患 |
|---|---|---|---|
| 閉塞性換気障害 | 1秒率(FEV₁%)70%未満 | 搬入路が細く、出すのに時間がかかる | COPD、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎 |
| 拘束性換気障害 | %肺活量(%VC)80%未満 | 工場の床面積そのものが狭い | 間質性肺炎、肺線維症、神経筋疾患、胸郭変形、高度肥満 |
| 混合性換気障害 | 1秒率70%未満 かつ %VC 80%未満 | 搬入路も狭く、床面積も狭い | 進行したCOPD+間質性変化、じん肺など |
混同しやすい点:「換気障害の分類」と「低酸素血症の機序」は別のレイヤーの話です。閉塞性換気障害であるCOPDが低酸素血症をきたす主な機序はV/Q不均等であり、拘束性換気障害である間質性肺炎の主な機序は拡散障害とV/Q不均等。スパイロは「どう息をしているか」、血液ガスは「その結果どうなったか」を見ている、と整理してください。
| デバイス | 酸素流量 | おおよそのFiO₂ | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 鼻カニュラ | 1〜6 L/分 | 24〜44% | 会話・食事が可能。呼吸様式でFiO₂が変動する。高流量では鼻粘膜が乾燥。 |
| 簡易酸素マスク | 5〜10 L/分 | 40〜60% | 5L/分未満では呼気の再呼吸が起こるため使用しない。 |
| リザーバー付きマスク | 6〜10 L/分 | 60〜90% | 高濃度が必要な急性期に使用。バッグが虚脱しない流量を保つ。 |
| ベンチュリマスク | ダイリュータで規定 | 24〜50%(設定値) | FiO₂を一定に保てるため、CO₂ナルコーシスを避けたい症例に適する。 |
| 高流量鼻カニュラ(HFNC) | 30〜60 L/分 | 21〜100%(設定値) | 加温加湿され、死腔の洗い出しと軽度のPEEP様効果。会話・経口摂取が可能。 |
| NPPV(非侵襲的陽圧換気) | — | 設定可能 | 換気そのものを補助できる。Ⅱ型呼吸不全の中心的治療。 |
工場で理解するデバイス選択
酸素投与(鼻カニュラ〜リザーバーマスク)は「工場に置く原料の濃度を上げる」方法です。積み込み工程が多少悪くても、在庫を増やせば積載量は増える。だからV/Q不均等や拡散障害にはよく効きます。
一方、NPPVやIPPVは空気の圧力を設定することで「工場を強制的に稼働させる」手段となります。搬入・搬出そのものを外から動かすので、肺胞低換気とCO₂貯留に対して本質的な解決になります。
この違いを押さえると、「Ⅱ型呼吸不全に酸素だけを増やす」選択肢が誤りである理由が原理から説明できます。
NPPVが良い適応となる代表的な病態
・呼吸性アシドーシスを伴うCOPD急性増悪(挿管回避と生命予後改善のエビデンスが確立)
・心原性肺水腫(陽圧による前負荷・後負荷の軽減と肺胞の再開通)
・神経筋疾患や胸郭変形による慢性換気不全(在宅NPPVを含む)
NPPVを避け、気管挿管を選ぶべき状況
・呼吸停止または切迫した呼吸停止
・意識障害があり気道を保護できない、誤嚥のリスクが高い
・大量の気道分泌物があり喀出できない
・顔面の外傷・熱傷・手術後などでマスクが装着できない、循環動態が極度に不安定
国試では「NPPVを開始したが1〜2時間経っても改善しない」という経過が示され、次の一手として気管挿管を選ばせる形式が典型です。NPPVは万能ではなく、効果判定の時間軸がある——この感覚を持っておくと迷いません。
①「SpO₂が保たれているから呼吸は大丈夫」→ 誤り。酸素投与下ではSpO₂が正常でもCO₂は上がり続けます。Ⅱ型を疑うなら血液ガスを取る以外にありません。
②「COPDに酸素は禁忌」→ 誤り。低酸素血症は生命を脅かすため酸素投与は必要です。問題は投与量で、目標SpO₂を高くしすぎないこと。「投与しない」ではなく「絞って投与し、血液ガスで確認する」が正解です。
③「A-aDO₂は酸素投与中でも計算できる」→ 正しいです。記事内で紹介したものは室内気での近似式ですが、酸素投与中では肺胞気式からPAO₂を計算することが可能です。
④「頻呼吸だからCO₂は下がっているはず」→ 必ずしも成立しません。呼吸が浅ければ死腔換気ばかりが増え、換気量は稼げません。呼吸数が多いのにPaCO₂が正常〜上昇していれば、呼吸筋疲労の危険信号です。
⑤「拡散障害だから安静時から低酸素になる」→ 誤りとなることが多いです。初期は安静時に正常で、労作時にのみ低酸素が顕在化することが多い。間質性肺疾患を疑う症例文では労作時の記載に注目してください。
解答・解説は折りたたんであります。まず自分の答えを決めてから「▼ 解答・解説を見る」をクリック(タップ)して確認してください。
呼吸不全の症例問題で見るべきは、PaO₂・PaCO₂・A-aDO₂の3つだけです。PaO₂が「困っているかどうか」、PaCO₂が「工場が稼働しているかどうか」、A-aDO₂が「積み込み工程が健全かどうか」を教えてくれます。この3つが揃えば、機序も、疾患群も、選ぶべき治療(酸素を増やすのか、換気を助けるのか)も自動的に決まります。
同じ発想は循環(ショックの4分類)や酸塩基平衡の解釈にも応用できます。数値を覚えるのではなく、数値が何の工程を映しているかを言語化する——この習慣が、臨床問題での得点を安定させます。
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Q. Ⅰ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全はどう見分けますか?
PaCO₂が45Torr以下ならⅠ型、45Torrを超えればⅡ型です。臨床的には、Ⅰ型は「酸素を取り込めていない」状態、Ⅱ型は「換気そのものが足りない」状態と理解すると治療方針に直結します。Ⅰ型には酸素投与、Ⅱ型には換気補助が中心になります。
Q. A-aDO₂は毎回計算する必要がありますか?
PaCO₂が上昇している症例では必ず計算してください。A-aDO₂が正常なら肺は無傷で純粋な換気不全、開大していれば肺疾患が併存している、という判断が一手で決まるためです。室内気の血液ガスでのみ成立する近似式である点にも注意が必要です。
Q. COPDの患者には酸素を投与してはいけないのですか?
投与してはいけないのではなく、投与量を絞る必要がある、が正確です。低酸素血症は生命に直結するため酸素投与は必須ですが、CO₂貯留リスクのある患者では目標SpO₂を88〜92%程度に設定し、FiO₂を一定に保てるベンチュリマスクなどを用いつつ、血液ガスで経過を確認します。
Q. 高流量鼻カニュラ(HFNC)とNPPVはどう使い分けますか?
HFNCは高濃度の酸素を安定して供給し、加温加湿と死腔の洗い出しによって酸素化を改善する手段で、主にⅠ型呼吸不全で用いられます。一方NPPVは吸気を陽圧で補助するため換気量そのものを増やせ、CO₂を下げられます。CO₂が問題ならNPPV、酸素化が問題ならHFNCが基本的な発想です。
Q. SpO₂だけで呼吸不全を判断してよいですか?
目安にはなりますが不十分です。SpO₂ 90%がおおよそPaO₂ 60Torrに対応するため呼吸不全のスクリーニングには使えますが、SpO₂ではCO₂の情報が一切得られません。加えて、末梢循環不全、体動、マニキュア、一酸化炭素中毒などでは値が信頼できなくなります。判断に迷えば血液ガスです。
Q. 閉塞性換気障害と拘束性換気障害はスパイロのどこを見ますか?
1秒率(FEV₁%)が70%未満なら閉塞性、%肺活量(%VC)が80%未満なら拘束性です。両方満たせば混合性。%1秒量(%FEV₁)は閉塞性換気障害の重症度評価に用いる指標であり、分類そのものには1秒率を使う、という区別を押さえておくと選択肢で迷いません。
・日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2026〔第7版〕」
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20260209000000.html
・日本呼吸器学会 肺生理専門委員会/日本呼吸ケア・リハビリテーション学会「酸素療法マニュアル」
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20170104152945.html
・日本呼吸器学会/日本集中治療医学会/日本呼吸療法医学会「ARDS診療ガイドライン2021」
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20231106085000.html
・日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20240319125656.html
・厚生労働省「医師国家試験」および「医師国家試験出題基準(ガイドライン)」(厚生労働省ウェブサイト内の資格・試験情報ページを参照)
東大医学部卒講師(現役医師)
略歴:
PMD医学部専門予備校およびCES医師国家試験予備校で講師として指導中。
医学教育・国試対策に関する豊富な実務経験をもとに監修・執筆を担当。
運営 CES医師国試予備校(株式会社アクト)
〒810-0041 福岡市中央区大名2-11-25 新栄ビル6F(地下鉄赤坂駅より徒歩2分)/TEL 0120-406-707・092-406-7099
※本記事は医師国家試験対策の学習を目的とした教育コンテンツです。実際の診療における判断は最新のガイドラインおよび各施設の方針に従ってください。
