【CES医師国試たとえシリーズ⑦】脳卒中を「高速道路の渋滞」で攻略|脳梗塞3病型とTIA・脳出血の見分け方

脳卒中は、医師国家試験で「時間との勝負」が最も明確に問われる領域です。脳梗塞の3病型、脳出血・くも膜下出血との鑑別、血管領域ごとの症状、rt-PAと血栓回収療法の適応時間、画像所見——覚えるべき項目が多いうえに、症例問題では「次に何をするか」を秒単位で判断させられます。

本記事では、脳血流を「高速道路網」に見立てます。どの道路が、どんな詰まり方をしたのか——「細い側道が詰まった(ラクナ)」「本線が徐々に狭くなった(アテローム)」「大型車が突然横転して塞いだ(心原性塞栓)」という3つの詰まり方が、そのまま発症様式・症状・治療の違いを説明します。さらに「渋滞しているがまだ車が生きている区間=ペナンブラ」という視点が、なぜ時間が命なのかを原理から理解させてくれます。確認テスト5問(解答は折りたたみ式)付きです。

この記事の結論(3行まとめ)

① 脳梗塞3病型は「どの太さの道路が、どう詰まったか」で決まる。発症様式(緩徐か突発か)と皮質症状(失語・無視)の有無で、症例文からほぼ判別できる。

② 症状だけで脳梗塞と脳出血は鑑別できない。最初に行うのは単純CTによる出血の除外であり、これは例外のない原則。

③ 治療の本質は「まだ生きている渋滞区間(ペナンブラ)を救うこと」。だから発症時刻=最終健常確認時刻の把握が、あらゆる判断の起点になる。

目次
  1. 脳血流=高速道路網に置き換える
  2. ペナンブラ:なぜ時間が命なのか
  3. 脳梗塞3病型を「詰まり方」で仕分ける
  4. 血管領域と症状の対応
  5. TIA:本番前の予告
  6. 脳梗塞と脳出血・くも膜下出血の比較
  7. 画像診断:何を、いつ、何のために撮るか
  8. 急性期治療:rt-PAと血栓回収療法
  9. FASTと病院前対応
  10. 国試で狙われる引っかけポイント
  11. 確認テスト(全5問・解答は折りたたみ)
  12. よくある質問(FAQ)

1. 脳血流=高速道路網に置き換える

脳へ酸素と糖を運ぶ血管網を、一つの都市の道路システムとして捉えてみます。内頸動脈と椎骨動脈という2系統の幹線が脳に流入し、Willis動脈輪という環状ジャンクションで連結され、そこから前・中・後大脳動脈という主要幹線が枝分かれします。さらに主要幹線からは、迂回路を持たない細い側道(穿通枝)が直接分岐して深部へ向かいます。

高速道路網 脳血管での対応 詰まったときの帰結
幹線高速道路 内頸動脈・椎骨脳底動脈 広範囲が一気に麻痺。重症化しやすい
環状ジャンクション Willis動脈輪 迂回路として機能すれば症状が軽く済む
主要幹線 前・中・後大脳動脈 担当区画に応じた症状が出る
迂回路のない細い側道 穿通枝(レンズ核線条体動脈など) 小さいが代わりがなく、ピンポイントで欠損が出る
渋滞して動けないが車は無事な区間 ペナンブラ 再開通すれば救えるが、放置すれば壊死へ
事故で完全に壊れた区間 梗塞コア 不可逆。再開通しても戻らない

なぜ穿通枝が重要か:穿通枝は主要幹線から直角に分岐する細い血管で、側副血行という迂回路を持ちません。しかも内包や基底核といった「神経線維が密集する交通の要衝」を灌流しています。だから直径が小さくても、詰まれば片麻痺という大きな症状が出る。病変の大きさと症状の重さは比例しない——これは脳の問題を解くうえでの基本感覚です。

2. ペナンブラ:なぜ時間が命なのか

血管が閉塞すると、その領域は一様に壊死するわけではありません。閉塞点の直下は完全に血流が途絶して短時間で不可逆的に壊死しますが(梗塞コア)、その周辺には側副血行によってわずかに血流が保たれ、機能は停止しているが細胞はまだ生きている領域が存在します。これがペナンブラです。

道路にたとえれば、事故現場そのものは復旧不能でも、その手前で渋滞している車列はまだ走れる状態で止まっているだけという状況です。通行止めを解除すれば動き出す。しかし時間が経てば燃料が尽き、渋滞していた区間も次々と壊れていきます。

つまり急性期治療の目的は、壊死した部分を治すことではなく、まだ助かるペナンブラを救うこと。時間が経つほどペナンブラはコアに飲み込まれていくため、「Time is brain」という標語が生まれました。rt-PAの4.5時間という時間枠も、この生物学的な猶予から導かれています。

この理解があると、急性期に血圧を下げすぎてはいけない理由も自然に導けます。ペナンブラは弱い側副血行でかろうじて灌流されており、血圧が下がればその細い迂回路も流れなくなる。降圧はペナンブラを見殺しにする行為になりうるのです。

3. 脳梗塞3病型を「詰まり方」で仕分ける
項目 ラクナ梗塞 アテローム血栓性脳梗塞 心原性脳塞栓症
道路での例え 迂回路のない細い側道が詰まる 本線の車線が徐々に狭まり、ついに閉鎖 大型車が突然横転して本線を全面封鎖
閉塞部位 穿通枝(15mm未満の小梗塞) 主幹動脈の粥状硬化部位 主幹動脈(心臓由来の塞栓子)
最大の危険因子 高血圧 高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙 心房細動
発症様式 安静時・睡眠中が多い、比較的緩徐 睡眠中〜起床時、段階的に進行 日中の活動時に突発、即座に完成
意識障害 通常なし 病巣が大きければあり 高頻度
皮質症状
(失語・半側空間無視)
なし ありうる 高頻度
TIAの先行 少ない 多い 少ない
出血性梗塞 まれ ときにあり きたしやすい
慢性期の再発予防 抗血小板薬・厳格な血圧管理 抗血小板薬・危険因子の是正 抗凝固薬(DOAC・ワルファリン)

なぜ発症様式が違うのか、道路で考える

アテローム血栓性が段階的なのは、車線が少しずつ狭まっていく過程だからです。時間をかけて狭窄が進む間に迂回路(側副血行)が発達し、また血圧が下がる睡眠中に流れが不足して発症しやすくなります。だから起床時に気づかれ、症状が階段状に悪化していく。

心原性塞栓が突発・重症なのは、健常な本線に予告なく大型車が突っ込んで全面封鎖するからです。迂回路が育っていないため一瞬で広範囲が虚血に陥り、症状は発症時が最も重い。さらに塞栓子が溶けて再開通したとき、もろくなった血管壁から出血する——これが出血性梗塞です。

ラクナ梗塞に皮質症状が出ないのは、穿通枝が灌流するのが深部(内包・基底核・視床・橋)であり、失語や半側空間無視を担当する大脳皮質を含まないからです。純粋運動性片麻痺、純粋感覚性卒中、構音障害・拙劣手症候群など、症候が「純粋」であることが特徴になります。

4. 血管領域と症状の対応
血管 担当する区画 主な症状
中大脳動脈 大脳半球の外側面(広範囲) 対側の片麻痺・感覚障害(顔面・上肢優位)、優位半球で失語、劣位半球で半側空間無視、病巣側への共同偏視
前大脳動脈 大脳半球の内側面・前頭葉 対側の下肢優位の麻痺、意欲低下・自発性の減少、把握反射
後大脳動脈 後頭葉・側頭葉内側 対側の同名半盲、視覚失認、記憶障害
椎骨脳底動脈系 脳幹・小脳 めまい、複視、構音障害、嚥下障害、失調、交代性片麻痺(同側の脳神経障害+対側の運動麻痺)

交代性片麻痺は脳幹病変の指標:顔面や眼球運動といった同側の脳神経症状と、手足の対側の麻痺が同時に出るのは、脳神経核と錐体路が脳幹内で交差前後にすれ違うためです。「顔は右、手足は左」という記述を見たら、大脳ではなく脳幹を考えます。

5. TIA:本番前の予告

一過性脳虚血発作(TIA)は、局所神経症状が出現したのち短時間(多くは1時間以内)で完全に消失し、画像上も梗塞を残さない状態です。道路でいえば、一時的に通行止めになったがすぐ解除され、道路の損傷もなかったという状況にあたります。

「治ったからよかった」ではない。TIAは脳梗塞のリスクが極めて高い状態を示すサインであり、発症直後の数日間、とくに48時間以内が最も危険とされます。同じ場所で本格的な通行止めが起きる直前だと考えてください。

対応 症状が消えていても緊急に評価します。頭部画像、頸動脈や頭蓋内血管の評価、心電図(心房細動の検索)、血液検査を行い、原因に応じて抗血小板療法や抗凝固療法を速やかに開始します。

一過性黒内障 片眼の視力が一時的に消失する症状で、内頸動脈の狭窄病変を示唆します。眼科疾患と誤らないよう注意が必要です。

6. 脳梗塞と脳出血・くも膜下出血の比較
項目 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血
道路での例え 通行止めで車が届かない 道路が決壊し、土砂が周囲を押し潰す 外壁(動脈瘤)が破裂し土砂が街全体に流出
主な原因 動脈硬化、心房細動 高血圧(被殻・視床に好発) 脳動脈瘤の破裂
頭痛 通常は軽度またはなし ありうる 突然の激烈な頭痛(しばしば人生最悪と表現される)
項部硬直 なし 通常なし あり(発症直後は明らかでないこともある)
単純CT 急性期は正常に見えることが多い 発症直後から明瞭な高吸収域 脳槽・脳溝に沿った高吸収域(ヒトデ型)
急性期の血圧 原則として過度な降圧は避ける 血腫増大を防ぐため速やかに降圧 再破裂予防のため降圧・鎮痛・鎮静
特有の注意点 時間枠内なら再開通療法 部位と血腫量により手術適応を検討(小脳出血は要注意) 再破裂、脳血管攣縮、正常圧水頭症の3つの時期

最重要の原則:上の表には傾向が並んでいますが、症状や身体所見だけで脳梗塞と脳出血を確実に鑑別することはできません。頭痛のない脳出血も、頭痛を伴う脳梗塞も存在します。だからこそ「脳卒中を疑ったら、まず単純CTで出血を除外する」という手順が絶対的です。この順序を飛ばして抗血栓療法を始めれば、脳出血の患者に致命的な処置を加えることになります。国試ではこの点が繰り返し試されます。

7. 画像診断:何を、いつ、何のために撮るか

単純CT ── 目的は「出血の除外」

出血は発症直後から白く(高吸収域として)明瞭に写ります。一方、急性期の脳梗塞はCTでほとんど写りません。「CTで異常がないから脳梗塞ではない」という判断は誤りで、むしろ「出血がない=脳梗塞として治療を進めてよい」という読み方をします。

それでも注意深く見ると早期虚血性変化(early CT sign)が捉えられることがあります。レンズ核の輪郭の不明瞭化、島皮質の不明瞭化、皮髄境界の消失、脳溝の狭小化などです。また閉塞した中大脳動脈が高吸収に見える所見(hyperdense MCA sign)は、そこに塞栓子が詰まっていることを示します。早期虚血性変化が広範であるほど、血栓溶解療法後の出血リスクが高まるため、治療方針の判断材料になります。

MRI拡散強調画像(DWI) ── 超急性期梗塞の検出に最も鋭敏

細胞性浮腫により水分子の拡散が制限された領域が発症数十分〜数時間という早い段階から高信号として描出されます。CTでは何も見えない時間帯でも病変を捉えられるため、超急性期診断の要となります。

血管撮影(MRA・CTA)と灌流画像

MRAやCTAはどの道路が、どこで塞がっているかを示します。内頸動脈や中大脳動脈近位部といった主幹動脈の閉塞が確認できれば、機械的血栓回収療法の検討対象になります。

灌流画像(CTまたはMRIのパフュージョン)は、すでに壊れたコアと、まだ救えるペナンブラの比率を可視化します。この情報があると、発症から時間が経った症例でも「救える組織が十分に残っているか」で治療適応を判断できます。

8. 急性期治療:rt-PAと血栓回収療法

静注血栓溶解療法(rt-PA・アルテプラーゼ)

発症から4.5時間以内に投与を開始できる症例が対象です。詰まった血栓を薬で溶かして通行止めを解除する治療で、早ければ早いほど効果が高くなります。

投与前の必須確認 単純CTまたはMRIで頭蓋内出血を除外すること、早期虚血性変化の広がりを評価すること。加えて、血圧が高すぎる場合は降圧してから投与します(コントロールできなければ適応外)。出血リスクを高める既往、最近の手術や外傷、抗凝固療法の状況、血糖値なども確認項目です。国試でもrt-PAの禁忌事項として頻繁に出題されています。

最大の合併症 症候性頭蓋内出血が挙げられます。だからこそ適応の確認が厳格に定められています。

機械的血栓回収療法

カテーテルを閉塞部まで進め、血栓を物理的に回収して再開通させる治療です。対象は内頸動脈や中大脳動脈近位部などの主幹動脈閉塞、つまり本線が塞がっているケースです。細い側道の閉塞(ラクナ梗塞)は対象になりません。

原則として発症から比較的早期に開始しますが、灌流画像などでペナンブラが十分に残っていることが確認できれば、より遅い時間帯でも適応となりうる点が近年の大きな進歩です。rt-PAの適応がある症例では、まずrt-PAを開始したうえで並行して準備を進めます。

「発症時刻」の定義に注意:基準となるのは最終健常確認時刻(last known well)です。起床時に症状に気づいた場合(wake-up stroke)、発症は「気づいた時刻」ではなく「最後に normal だった就寝時」として扱われるため、多くは時間枠を超えてしまいます。ただし画像所見によって治療対象となりうる場合があり、実臨床では画像による選択が行われます。

その他の急性期管理:抗血栓療法(非心原性では抗血小板薬、心原性では抗凝固薬)、脳保護、全身管理、早期からのリハビリテーション、そして誤嚥性肺炎の予防のための嚥下評価。脳梗塞急性期には原則として過度の降圧を行わないのは、ペナンブラの灌流を守るためです。

9. FASTと病院前対応

一般市民および医療従事者が脳卒中を疑うための簡便な指標がFASTです。治療が時間に強く依存する以上、病院に到着するまでの時間短縮が予後を大きく左右します。

文字 意味 確認方法
F Face(顔のゆがみ) 笑ってもらい、口角の左右差を見る
A Arm(腕の脱力) 両腕を前に上げて保持してもらい、片方が下がるかを見る
S Speech(言葉の障害、失語) 短い文を復唱してもらい、ろれつや言い間違いを見る
T Time(時間) 上記症候の1つでも当てはまれば直ちに救急要請。発症時刻を必ず記録する

病院前の段階で最も価値のある情報は「最後に normal だったのは何時か」です。症例問題でも、この一文が治療方針を決定づける鍵として配置されていることがよくあります。

10. 国試で狙われる引っかけポイント

①「頭痛がないから脳出血ではない」→ 誤り。症状だけでは鑑別できません。まずCTが絶対の原則です。

②「CTで異常がないから脳梗塞は否定的」→ 誤り。急性期の梗塞はCTに写りません。CTの役割は出血の除外であり、梗塞の検出はMRI拡散強調画像が担います。

③「血圧が高いので急いで下げる」→ 脳梗塞急性期では過度な降圧がペナンブラを壊します。ただしrt-PAを行う場合は基準値まで下げる必要があり、脳出血では血腫増大を防ぐため降圧します。病態によって方針が正反対になる点が最大の狙われどころです。

④「起床時に気づいたので発症は起床時刻」→ 誤り。基準は最終健常確認時刻です。

⑤「心房細動があるので再発予防にアスピリン」→ 心原性脳塞栓症の再発予防は抗凝固療法です。抗血小板薬は不適です。逆に非心原性脳梗塞にルーチンで抗凝固薬を使うのも誤りです。

⑥「症状が消えたTIAなので後日外来で精査」→ 誤り。TIA直後は脳梗塞発症のリスクが極めて高く、緊急評価の対象です。

⑦「ラクナ梗塞で失語が出現」→ 矛盾。穿通枝領域は大脳皮質を含まないため、皮質症状は出ません。症例文に失語や半側空間無視があれば、皮質を含む病変を考えます。

11. 確認テスト(全5問)

解答・解説は折りたたんであります。まず自分の答えを決めてから「▼ 解答・解説を見る」をクリック(タップ)して確認してください。

第1問

78歳女性。夕食中に突然右上肢が動かなくなり、言葉が出なくなった。症状は発症時から完全に揃っていた。心電図で心房細動を認める。最も考えられる病型はどれか。

a ラクナ梗塞

b アテローム血栓性脳梗塞

c 心原性脳塞栓症

d 一過性脳虚血発作

e くも膜下出血

▼ 解答・解説を見る

解答:c

日中の活動時に突然発症し、症状が発症時に完成しており、失語という皮質症状を伴い、心房細動がある——心原性脳塞栓症の典型像がすべて揃っています。健常な本線に予告なく塞栓子が詰まるため、迂回路が育っておらず一気に広範囲が虚血に陥ります。

ラクナ梗塞は穿通枝領域のため失語をきたしません(aが誤り)。アテローム血栓性は段階的進行や起床時発症が典型(bが誤り)。症状が持続しているためTIAではなく(dが誤り)、激烈な頭痛の記載もないためくも膜下出血は考えにくい(eが誤り)です。

第2問

急性期脳梗塞に対する静注血栓溶解(rt-PA)療法について正しいのはどれか。

a 発症から24時間以内であれば適応となる

b 発症から4.5時間以内の投与開始が原則である

c 投与前の画像検査は必須ではない

d 最も重大な合併症は腎機能障害である

e 血圧が高い場合でも降圧せずに投与する

▼ 解答・解説を見る

解答:b

rt-PA静注療法は発症4.5時間以内の投与開始が原則で、早いほど効果が高くなります。この時間枠は、救えるペナンブラが残存している猶予に対応しています。

投与前には単純CTまたはMRIで頭蓋内出血を除外し、早期虚血性変化を評価することが必須(cが誤り)。最も重大な合併症は症候性頭蓋内出血であり(dが誤り)、血圧が高い場合は降圧してから投与し、コントロールできなければ適応外となります(eが誤り)。

第3問

ラクナ梗塞について正しいのはどれか。2つ選べ。

a 最大の危険因子は高血圧である

b 穿通枝の閉塞によって生じる

c 失語や半側空間無視を高頻度に伴う

d 意識障害をきたすことが多い

e 機械的血栓回収療法のよい適応である

▼ 解答・解説を見る

解答:a、b

ラクナ梗塞は穿通枝の閉塞による小梗塞で、長年の高血圧による血管の変性が背景にあります。灌流するのは内包や基底核などの深部であり、大脳皮質を含まないため皮質症状は出ません(cが誤り)。病巣が小さいため意識障害も通常きたしません(dが誤り)。

機械的血栓回収療法は主幹動脈閉塞が対象であり、細い穿通枝の閉塞は適応外です(eが誤り)。「小さいのに麻痺が出る」のは、内包という神経線維の要衝を通っているためです。

第4問

発症1時間の脳梗塞を検出する検査として最も感度が高いのはどれか。

a 単純CT

b 造影CT

c MRI拡散強調画像

d MRI T1強調画像

e 頭部単純エックス線

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解答:c

拡散強調画像は、細胞性浮腫によって水分子の動きが制限された領域を発症数十分から高信号として描出でき、超急性期の脳梗塞検出に最も鋭敏です。

単純CTはこの時間帯ではほとんど異常を示しませんが、出血の除外という別の目的で最初に行う点を混同しないでください。「最も感度が高い検査」と「最初に行う検査」は別の問いであり、設問の言い回しを正確に読み取ることが求められます。

第5問

68歳男性。1時間前から左片麻痺が出現し救急搬送された。意識はやや傾眠、血圧186/98mmHg。この時点で最初に行うべき対応はどれか。

a 直ちにrt-PAを投与する

b アスピリンを内服させる

c 頭部単純CTを撮影する

d ヘパリンの持続静注を開始する

e 降圧薬で収縮期血圧を120mmHgまで下げる

▼ 解答・解説を見る

解答:c

脳卒中を疑ったら、まず単純CTで頭蓋内出血を除外する——これが例外のない原則です。症状だけでは脳梗塞と脳出血を鑑別できず、出血であった場合にa・b・dのような抗血栓療法を行えば致命的になります。

また、脳梗塞急性期に収縮期血圧を120mmHgまで下げるのは過度であり、ペナンブラの灌流を損ないます(eが誤り)。ただしrt-PAを実施する場合には基準値まで降圧する必要があり、脳出血であれば血腫増大を防ぐため降圧を行います。CTの結果を見るまで、血圧管理の方針すら決まらないのです。

まとめ:どの道路が、どう詰まったか

脳卒中の症例問題で見るべきものは、突き詰めれば3つです。どの道路が詰まったか(血管領域と症状)、どんな詰まり方をしたか(発症様式と病型)、そしていつ詰まったか(最終健常確認時刻)。この3点が決まれば、必要な画像も、治療の選択肢も、血圧管理の方針も自動的に定まります。

そして脳卒中に固有の要素が「時間」です。ペナンブラというまだ救える渋滞区間が刻一刻と失われていく——この一点を理解していれば、なぜCTを最優先するのか、なぜ降圧を控えるのか、なぜ発症時刻に固執するのかが、すべて同じ論理から説明できます。循環・呼吸・腎・代謝・感染で見てきた「故障箇所を特定してから手を打つ」という思考に、脳卒中では時間軸が加わるのだと考えてください。

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よくある質問

Q. 症状だけで脳梗塞と脳出血を見分けられますか?

できません。頭痛や嘔吐、高度の意識障害は脳出血で多い傾向がありますが、頭痛のない脳出血も、頭痛を伴う脳梗塞も珍しくありません。両者は治療方針が正反対になるため、脳卒中を疑ったら必ず単純CTで出血を除外してから次の判断へ進みます。

Q. TIAは症状が消えたのだから様子を見てよいのでは?

よくありません。TIAは脳梗塞発症の直前に出る警告であり、発症からの数日間、特に48時間以内のリスクが最も高いとされます。症状が消失していても緊急に評価し、頭部画像、血管評価、心電図による心房細動の検索を行い、原因に応じた抗血栓療法を速やかに開始します。

Q. 発症時刻はなぜそれほど重要なのですか?

救えるペナンブラが時間とともに失われていくためです。rt-PA静注療法は発症4.5時間以内が原則であり、血栓回収療法にも時間の制約があります。基準となるのは症状に気づいた時刻ではなく最終健常確認時刻である点に注意が必要です。

Q. 起床時に症状に気づいた場合(wake-up stroke)はどうなりますか?

発症時刻を就寝時として扱うため、多くの症例で通常の時間枠を超えてしまいます。ただし近年は、画像所見によって発症からの経過時間を推定したり、救える組織が残っているかを評価したりすることで、治療対象となりうる症例を選別する方法が用いられています。「時間が不明だから何もできない」わけではありません。

Q. ペナンブラとは何ですか?

血管閉塞によって機能は停止しているものの、側副血行によりわずかな血流が保たれ、細胞がまだ生存している領域です。血流が再開すれば機能が回復しうる一方、時間が経てば不可逆的な梗塞に移行します。急性期治療の目的は、まさにこのペナンブラを救うことにあります。

Q. 心房細動があると抗血小板薬ではなく抗凝固薬なのはなぜですか?

血栓のできる仕組みが異なるためです。心房細動では血液のうっ滞によって凝固因子が働き、フィブリンを主体とする血栓が心内で形成されます。これを抑えるには凝固因子を標的とする抗凝固薬が必要です。一方、動脈硬化部位でできる血栓は血小板が主役であるため、非心原性脳梗塞では抗血小板薬が用いられます。

参考資料

・日本脳卒中学会「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版(2023年9月追補)」
https://www.jsts.gr.jp/img/rt-pa03_supple.pdf

・日本脳卒中学会 公式サイト(脳卒中治療ガイドライン、経皮経管的脳血栓回収用機器適正使用指針ほか)
https://www.jsts.gr.jp/

・東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース(脳卒中関連ガイドライン一覧)
https://guideline.jamas.or.jp/?t=1&sBunruiShikkan=D12-01-01-01

・厚生労働省「医師国家試験」および「医師国家試験出題基準(ガイドライン)」(厚生労働省ウェブサイト内の資格・試験情報ページを参照)

著者プロフィール

東大医学部卒講師(現役医師)

略歴:

PMD医学部専門予備校およびCES医師国家試験予備校で講師として指導中。
医学教育・国試対策に関する豊富な実務経験をもとに監修・執筆を担当。

運営 CES医師国試予備校(株式会社アクト)

〒810-0041 福岡市中央区大名2-11-25 新栄ビル6F(地下鉄赤坂駅より徒歩2分)/TEL 0120-406-707・092-406-7099

※本記事は医師国家試験対策の学習を目的とした教育コンテンツです。実際の診療における判断は最新のガイドラインおよび各施設の方針に従ってください。