【CES医師国試たとえシリーズ⑥】感染症を「城攻め」で攻略|抗菌薬の作用点4か所と耐性菌4機序で丸暗記ゼロ

感染症は、医師国家試験で「暗記の物量に押し潰されやすい」筆頭の分野です。菌の名前が数十、抗菌薬の系統が十数、それぞれに作用機序と副作用と適応があり、さらに耐性菌、感染対策、届出義務まで加わります。この量を平面的なリストとして覚えようとすると、試験本番で手が止まります。

本記事では、細菌を「城」、抗菌薬を「攻城法」として整理します。城壁を崩すのか、兵器工場を止めるのか、設計図を破壊するのか、兵糧を断つのか——攻め方は4通りしかありません。この地図を持てば、抗菌薬の系統は暗記対象ではなく「どこを狙う武器か」という属性に変わり、耐性菌のしくみまで同じ言葉で説明できるようになります。抗菌薬選択のフローチャートと確認テスト5問(解答は折りたたみ式)付きです。

この記事の結論(3行まとめ)

① 抗菌薬の作用点は「城壁(細胞壁)」「兵器工場(リボソーム)」「設計図(核酸)」「兵糧(葉酸)」の4か所しかなく、系統名を作用点に紐づければ一覧表は不要になります。

② 耐性の獲得も「武器を壊す・受け口を変える・門を閉じる・汲み出す」の4通り。MRSAもESBL産生菌も、このどれかで説明できます。

③ 抗菌薬は「熱があるから出す」ものではないです。感染臓器を決め、起因菌を推定し、培養を採ってから開始し、結果が出たら狭域化する——この順序が問われます。

目次
  1. 細菌=城、抗菌薬=攻城法に置き換える
  2. グラム染色は「城壁の厚さと堀の有無」
  3. 抗菌薬の作用点4か所と系統一覧
  4. 主要抗菌薬の注意点
  5. ウイルスは城ではない
  6. 耐性菌:4つの防衛策
  7. 抗菌薬選択のフローチャート
  8. 敗血症:城攻めが全身戦に発展したとき
  9. 感染対策:標準予防策と経路別予防策
  10. 国試で狙われる引っかけポイント
  11. 確認テスト(全5問・解答は折りたたみ)
  12. よくある質問(FAQ)

1. 細菌=城、抗菌薬=攻城法に置き換える

細菌を、独立して機能する一つの城だと考えてください。城には堅牢な城壁があり、その内側では兵器工場が絶えず武器(タンパク質)を生産し、金庫には設計図(DNA)が保管され、兵糧(葉酸などの必須物質)が自給されています。この城を落とすには、どこかの機能を止めればよいことになります。抗菌薬とは、その攻撃地点を選んだ武器にほかなりません。

城の構造 細菌での対応 攻撃する薬
城壁 細胞壁(ペプチドグリカン) β-ラクタム系、グリコペプチド系
城門・内壁 細胞膜 ダプトマイシンなど
兵器工場 リボソーム(30S・50S) アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、マクロライド系、クリンダマイシンなど
設計図・司令部 DNA複製・RNA合成 キノロン系、リファンピシン、メトロニダゾール
兵糧の自給設備 葉酸合成経路 ST合剤(サルファ剤+トリメトプリム)

なぜ抗菌薬はヒトの細胞に効きにくいのか:選択毒性の原理がここで説明できます。ヒトの細胞には城壁(細胞壁)がなく、リボソームの規格も異なり(ヒトは40S・60S、細菌は30S・50S)、葉酸は食事から取り込むため自給設備を持ちません。つまり細菌にしかない設備を狙うから、ヒトには害が少ない。逆に言えば、ヒトと共通する部分を狙う薬ほど副作用が出やすいという予測も立ちます。

2. グラム染色は「城壁の厚さと堀の有無」

グラム染色は、城の構造を2種類に大別する最初の偵察です。

グラム陽性菌(紫に染まる)=分厚い城壁むき出しの城

ペプチドグリカン層が厚く、その外側に膜がありません。城壁が直接露出しているため、城壁を狙う薬(β-ラクタム系、バンコマイシン)が届きやすい。ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌などが該当します。

グラム陰性菌(赤〜ピンクに染まる)=薄い城壁の外に外堀がある城

ペプチドグリカン層は薄いものの、その外側に外膜という追加のバリアを持ちます。この外膜が薬剤の侵入を阻むため、多くの抗菌薬が届きません。バンコマイシンがグラム陰性菌に効かないのは、分子が大きすぎて外堀を越えられないからです。大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌、インフルエンザ菌などが該当し、外膜のリポ多糖(LPS)はエンドトキシンとして敗血症性ショックの引き金にもなります。

城壁を持たない例外:マイコプラズマは細胞壁そのものを持ちません。城壁がない城に「城壁を崩す武器」を撃っても無意味なので、β-ラクタム系は原理的に無効です。マクロライド系やテトラサイクリン系(兵器工場を狙う武器)、キノロン系を用います。

クラミジアやレジオネラは細胞内に潜り込むため、細胞内へ移行しやすい薬剤が必要になります。これらをまとめて非定型病原体と呼び、非定型肺炎の治療選択の根拠になります。

3. 抗菌薬の作用点4か所と系統一覧
攻撃地点 系統 作用の詳細 殺菌/静菌
城壁
(細胞壁合成)
β-ラクタム系(ペニシリン、セフェム、カルバペネム、モノバクタム) ペニシリン結合タンパク(PBP)に結合し、城壁の架橋形成を阻害 殺菌的
グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン) 城壁の材料そのものに結合。分子量が大きく外膜を通れないため、グラム陰性菌には無効 殺菌的
城門・内壁
(細胞膜)
ダプトマイシン 膜構造を直接破壊。ダプトマイシンは肺サーファクタントで不活化され肺炎には使えない 殺菌的
兵器工場
(タンパク合成)
30S:アミノグリコシド系、テトラサイクリン系 小サブユニットに結合し、誤読の誘発や結合の阻害を起こす アミノグリコシドは殺菌的/テトラサイクリンは静菌的
50S:マクロライド系、クリンダマイシン 大サブユニットに結合し、ペプチド鎖の伸長を止める 主に静菌的
設計図
(核酸合成)
キノロン系、リファンピシン、メトロニダゾール 核酸そのものや核酸の合成を阻害する 殺菌的
兵糧
(葉酸合成)
ST合剤 葉酸合成経路を2か所で連続的に阻害。ニューモシスチス肺炎の治療・予防にも用いる 静菌的(併用で殺菌的)

30Sと50Sを覚える必要はあるか

結論から言えば、国試レベルでは「タンパク合成阻害である」ことが分かれば大半の設問は解けます。ただし作用点を問う設問も出るため、覚えるなら語呂ではなく「アミノグリコシドとテトラサイクリンが30S、残りは50S」と塊で押さえるのが効率的です。名前の並びより、系統の数が少ない30S側を覚えるほうが負荷が軽くなります。

4. 主要抗菌薬の注意点
薬剤 押さえるべき副作用・注意点
ペニシリン・セフェム系 アレルギー(アナフィラキシー)。既往の確認が必須
バンコマイシン 急速静注による皮膚紅潮(レッドマン症候群)、腎障害。血中濃度モニタリング(TDM)が必要
アミノグリコシド系 腎障害と第VIII脳神経障害(難聴・平衡障害)。取り込みが酸素依存性のため嫌気性菌には無効。こちらもTDMが必要。
テトラサイクリン系 歯牙の着色・エナメル質形成不全のため小児・妊婦では原則避ける。
マクロライド系 QT延長、CYP3A4阻害による薬物相互作用
クリンダマイシン 腸内細菌叢の攪乱によるClostridioides difficile感染症を起こしやすい
キノロン系 QT延長、痙攣誘発リスクあり。小児・妊婦では原則避ける。
メトロニダゾール 末梢神経障害が有名。嫌気性菌・原虫に有効な薬剤。
ST合剤 皮疹や高カリウム血症、骨髄抑制の可能性あり

5. ウイルスは城ではない

ここが感染症の理解を左右する分岐点です。ウイルスは城を持ちません。城壁も兵器工場も設計図の複製装置も持たず、こちらの城(宿主細胞)に潜入して工場を乗っ取るスパイのような存在です。

攻撃すべき城壁も細菌型リボソームも存在しないため、抗菌薬はウイルスに原理的に無効です。「風邪に抗菌薬」が誤りである理由は、経験則ではなく構造上の必然です。

抗ウイルス薬は、ウイルス固有の酵素や侵入・放出の工程を狙います。侵入阻害、ウイルス特有のポリメラーゼの阻害、細胞外への放出を阻害するノイラミニダーゼ阻害薬、逆転写酵素・プロテアーゼ・インテグラーゼの阻害などが挙げられます。宿主の設備を借りている以上、狙える標的が限られる——これが抗ウイルス薬の種類が抗菌薬ほど多くない理由でもあります。

国試での出方:急性上気道炎、急性気管支炎、多くの急性下痢症は主にウイルス性であり、基礎疾患のない成人・小児では抗菌薬を投与しないことが推奨されています。「念のため抗菌薬を処方する」という選択肢は、たとえ患者から求められた設定でも正答になりません。

6. 耐性菌:4つの防衛策

城が攻撃に適応すると耐性菌になります。耐性菌の抗菌薬に対する防衛の手口も代表的なものとして4通りあります。

① 武器を壊す(分解酵素の産生) β-ラクタマーゼを作り、攻撃側の武器そのものを無力化します。ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌、AmpC産生菌、カルバペネマーゼ産生菌がこれ。抗生剤投与時にβ-ラクタマーゼ阻害薬を併用したものを選択するのは、武器を壊す装置を先に潰す作戦です。

② 受け口を変える(標的の変化) 薬が結合すべき部位の形を変えてしまいます。MRSAはmecA遺伝子によって変化したペニシリン結合タンパク(PBP2′)を獲得し、β-ラクタム系全般が結合できなくなります。「MRSAだからペニシリンだけが効かない」のではなく、セフェムもカルバペネムも含めて大半のβ-ラクタム系が無効である点が最重要です。

③ 門を閉じる(透過性の低下) 外膜のポーリン(通路)を減らし、薬を城内に入れません。グラム陰性桿菌でしばしば見られます。

④ 汲み出す(排出ポンプ) 入ってきた薬を能動的に城外へ排出します。緑膿菌の多剤耐性化に寄与する機序のひとつです。

耐性菌 主な機序 治療選択肢の例
MRSA PBPの変化(受け口を変える) バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、リネゾリド
ESBL産生菌 β-ラクタマーゼによる分解(武器を壊す) カルバペネム系が中心。感受性次第で他剤への段階的変更も検討
VRE 城壁の材料側を変化させ、バンコマイシンが結合できない ダプトマイシン、リネゾリドなど(菌種・型により選択)
多剤耐性緑膿菌・CRE 分解酵素・透過性低下・排出ポンプの複合 感受性検査に基づく個別判断。専門医へのコンサルトが原則

AMR(薬剤耐性)対策の視点:耐性菌は「不必要な攻撃を繰り返した結果、城が学習してしまった」状態です。だからこそ、必要のない抗菌薬を使わないこと、必要な場面では十分量を適切な期間使うこと、そして培養結果が出たら広域から狭域へ切り替える(de-escalation)ことが、個々の患者だけでなく社会全体の利益になります。この公衆衛生的な視点も出題対象です。

7. 抗菌薬選択のフローチャート

症例問題で「次に行うべきことはどれか」と問われたとき、この順序に沿って考えると迷いません。

STEP 1 そもそも感染症か?

発熱=感染症ではありません。悪性腫瘍、膠原病、薬剤熱、深部静脈血栓症なども発熱をきたします。「感染症らしさ」を検討せずに抗菌薬を開始しないようにしましょう。

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STEP 2 どの臓器の感染か(感染巣の同定)

肺・尿路・腹腔内・皮膚軟部組織・中枢神経・血管内デバイスなど。臓器が決まれば起因菌の候補は大きく絞られます。病歴と身体所見が最大の武器です。

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STEP 3 起因菌を推定する

感染臓器に加え、市中感染か医療関連感染か、免疫状態、最近の抗菌薬使用歴、耐性菌の保菌歴を考慮します。グラム染色はその場で城の型が分かる強力な検査です。

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STEP 4 抗菌薬投与前に培養を採取する

血液培養2セット、および想定される感染巣の検体を採取しましょう。投与後では菌が検出されにくくなり、その後の狭域化ができなくなります。ただし敗血症や細菌性髄膜炎など一刻を争う場面では救命を優先し、培養採取のために抗菌薬開始を過度に遅らることはしません。

▼

STEP 5 経験的治療(エンピリック治療)を開始する

重症度と耐性リスクに応じて広さを決めます。重症・免疫不全・耐性菌リスクありなら広めに、軽症の市中感染なら狭めに。同時に膿瘍のドレナージやカテーテル抜去など、感染源のコントロールを検討します。薬だけでは城は落ちません。

▼

STEP 6 培養・感受性結果に基づき狭域化する

起因菌が判明したら、最も感受性が良く、狭いスペクトラムの薬へ切り替えます(de-escalation)。耐性菌の発生と副作用を減らすための必須工程です。

▼

STEP 7 効果判定と治療期間の決定

解熱、症状、炎症反応の推移で判定します。改善しない場合は「起因菌の想定違い」「感染源が制御されていない」「薬剤到達性の問題」「そもそも感染症ではない」のいずれかを疑い、STEP 1へ戻ります。

8. 敗血症:城攻めが全身戦に発展したとき

敗血症は、感染に対する制御不能な生体反応によって臓器障害が生じた状態です。城との局地戦のはずが、細菌側の砲撃で自国の街まで壊れてしまう——そのようなイメージが実態に近い病態です。

疑い方 感染症が疑われる患者で、意識の変容、呼吸数の増加、収縮期血圧の低下といった項目(qSOFA)に注目し、まずはqSOFAスコアの上昇で臓器障害を評価します。ICU管理ではより正確なSOFAスコアを使用します。

初期対応 血液培養2セットを採取したうえで速やかに広域抗菌薬を投与、輸液による循環の是正、そして感染源の特定、コントロールを行います。

敗血症性ショック 十分な輸液を行っても昇圧薬を要し、臓器障害が出現している状態です。第一選択の昇圧薬はノルアドレナリンとなります。血管が異常に拡張して血圧が保てない病態であり、ショックの4分類では血液分布異常性に相当します。

9. 感染対策:標準予防策と経路別予防策
感染予防策は全患者対象の標準予防策と特定の病原体が対象の感染経路別予防策が存在します。感染経路別予防策は空気感染、接触感染など病原体の感染経路によって使い分けるものとなります。

標準予防策(スタンダードプリコーション)

すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物(汗を除く)・粘膜・損傷した皮膚を、感染性があるものとして扱う——これが出発点です。診断がついているかどうかは関係ありません。手指衛生、必要に応じた手袋・ガウン・マスクの着用、器具の適切な取り扱いが含まれます。

経路別予防策 主な対策 代表的な疾患・微生物
接触予防策 手袋・ガウン、専用または個別管理の器具 MRSA、多剤耐性菌、C. difficile、ノロウイルス、疥癬
飛沫予防策 サージカルマスク、患者との距離の確保 インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、髄膜炎菌
空気予防策 N95マスク(フィットテスト実施)、陰圧個室 結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)

空気感染の3疾患は必ず暗記:結核・麻疹・水痘。この3つだけがN95マスクと陰圧室を要します。「インフルエンザは空気感染だからN95」という選択肢は誤りです。

アルコールが効かない相手:C. difficileは芽胞を形成し、ノロウイルスはエンベロープを持たないため、いずれもアルコール手指消毒では十分に不活化されません。石けんと流水による手洗いで物理的に洗い流すことが必要で、環境消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用います。

10. 国試で狙われる引っかけポイント

①「MRSAだからセフェム系に変更」→ 誤り。MRSAはβ-ラクタム系が丸ごと無効です。カルバペネムでも効きません。

②「マイコプラズマ肺炎にセフトリアキソン」→ 誤り。細胞壁を持たない菌に細胞壁合成阻害薬は無効です。

③「抗菌薬を開始してから培養を提出」→ 順序が逆。培養は抗菌薬投与前が原則です。

④「C. difficile感染症の患者にアルコール手指消毒を徹底」→ 不十分。芽胞にはアルコールが効かず、流水と石けんが必要です。

⑤「腹腔内感染にアミノグリコシド単剤」→ 不適切。嫌気性菌への活性がありません。嫌気性菌のカバーが必要です。

⑥「症状が続くので抗菌薬を追加して広げる」→ 短絡的。まず感染源が制御されているか(膿瘍、感染したカテーテル、閉塞)を疑うのが先です。

⑦「発熱があるので広域抗菌薬を開始」→ 感染症以外の発熱を除外せず、培養も採らずに開始する流れは正答になりません。

11. 確認テスト(全5問)

解答・解説は折りたたんであります。まず自分の答えを決めてから「▼ 解答・解説を見る」をクリック(タップ)して確認してください。

第1問

抗菌薬と作用機序の組合せで正しいのはどれか。

a バンコマイシン ── タンパク合成阻害

b レボフロキサシン ── 細胞壁合成阻害

c ゲンタマイシン ── 30Sリボソームに作用しタンパク合成を阻害

d アジスロマイシン ── 葉酸合成阻害

e ST合剤 ── DNAジャイレース阻害

▼ 解答・解説を見る

解答:c

アミノグリコシド系のゲンタマイシンは30Sリボソームに結合してタンパク合成を阻害します(兵器工場を止める)。

バンコマイシンは細胞壁合成阻害(aが誤り)、レボフロキサシンはDNAジャイレース/トポイソメラーゼIVの阻害(bとeが誤り)、アジスロマイシンは50Sリボソームに作用するタンパク合成阻害薬(dが誤り)です。「攻撃地点はどこか」で分類しておけば、名称の丸暗記なしに解けます。

第2問

21歳男性。3週間続く乾性咳嗽と微熱。胸部エックス線でびまん性の間質性陰影を認め、マイコプラズマ肺炎が疑われた。β-ラクタム系抗菌薬が無効である理由として正しいのはどれか。

a β-ラクタマーゼを産生するため

b 細胞壁を持たないため

c 外膜により薬剤が透過できないため

d 薬剤排出ポンプを有するため

e 芽胞を形成するため

▼ 解答・解説を見る

解答:b

マイコプラズマは細胞壁を持たないため、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系は耐性を獲得したのではなく、そもそも標的が存在しないのです。攻撃すべき城壁がない城、と考えれば直感的に理解できます。

治療にはマクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系など、タンパク合成や核酸合成を標的とする薬剤を用います。a・c・dはいずれも耐性の機序であり、本問の理由とは性質が異なります。

第3問

MRSAについて正しいのはどれか。

a β-ラクタマーゼの産生が主たる耐性機序である

b ペニシリン結合タンパクの変化が主たる耐性機序である

c カルバペネム系抗菌薬が第一選択となる

d 空気予防策が必要である

e グラム陰性桿菌に分類される

▼ 解答・解説を見る

解答:b

MRSAはmecA遺伝子によって変化したペニシリン結合タンパク(PBP2′)を獲得しており、β-ラクタム系が結合できなくなります。受け口の形を変えるタイプの耐性です。したがってカルバペネムを含むβ-ラクタム系はすべて無効で、cは誤り。治療にはバンコマイシンなどを用います。

MRSAは黄色ブドウ球菌でありグラム陽性球菌(eが誤り)。感染対策は接触予防策であり、空気予防策は不要です(dが誤り)。

第4問

空気予防策(N95マスクと陰圧個室)が必要な疾患はどれか。2つ選べ。

a インフルエンザ

b 肺結核

c 流行性耳下腺炎

d 麻疹

e ノロウイルス性胃腸炎

▼ 解答・解説を見る

解答:b、d

空気感染するのは結核・麻疹・水痘の3疾患です。飛沫核が長時間空気中を漂うため、サージカルマスクでは不十分で、N95マスクと陰圧個室が必要になります。

インフルエンザと流行性耳下腺炎は飛沫予防策、ノロウイルスは接触予防策の対象です。この3疾患だけは丸暗記の価値がある項目で、繰り返し出題されます。

第5問

78歳女性。肺炎に対する抗菌薬投与中に、1日8回の水様下痢と発熱が出現した。Clostridioides difficile感染症が疑われる。この患者への対応として適切でないのはどれか。

a 接触予防策を実施する

b 手指衛生はアルコール製剤のみで十分とする

c 環境消毒に次亜塩素酸ナトリウムを用いる

d 誘因となった抗菌薬の中止・変更を検討する

e 個室管理を考慮する

▼ 解答・解説を見る

解答:b

C. difficileは芽胞を形成し、アルコールでは不活化されません。石けんと流水による手洗いで物理的に洗い流すことが必要です。同じ理由で、環境消毒には芽胞に有効な次亜塩素酸ナトリウムを用います。

また、原因となった抗菌薬の中止や変更は治療の基本方針のひとつです。腸内細菌叢が乱れた結果として起こる病態であることを踏まえれば、a・c・d・eはいずれも妥当な対応と判断できます。

まとめ:攻撃地点と防衛策で、感染症は地図になる

抗菌薬は城壁・兵器工場・設計図・兵糧の4か所を狙う武器であり、耐性菌は武器を壊す・受け口を変える・門を閉じる・汲み出すの4通りで防衛します。この8つの言葉があれば、系統名も耐性機序も、そして「なぜこの菌にこの薬なのか」も、すべて同じ地図の上に配置できます。

そして臨床では、武器の選定より先に「どの城を、どこで攻めているのか」を見極めることが決定的です。感染臓器を決め、起因菌を推定し、培養を採ってから撃つ。この順序は、循環(ショック)・呼吸(呼吸不全)・腎(AKI)・代謝(糖尿病)で見てきた「故障箇所を特定してから手を打つ」という思考とまったく同じものです。国試の問題演習を通じて暗記ではなく体系的に考えるように訓練していきましょう。

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よくある質問

Q. グラム陽性菌と陰性菌で効く薬が違うのはなぜですか?

構造が違うためです。グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層が露出しているため、細胞壁を標的とする薬が届きやすい。一方グラム陰性菌はその外側に外膜という追加のバリアを持ち、多くの薬剤が透過できません。バンコマイシンがグラム陰性菌に無効なのは、分子が大きく外膜を通過できないためです。

Q. とりあえず広域抗菌薬を使うのは何が問題なのですか?

耐性菌の選択と、正常細菌叢の破壊による副作用です。広域抗菌薬は病原菌以外の常在菌も広く排除するため、C. difficile感染症や真菌感染症を招きやすくなります。加えて、耐性菌が生き残って増える圧力を高め、次に必要になったときに使える薬を減らしてしまいます。必要な場面では躊躇せず使い、不要な場面では使わない、という使い分けが重要です。

Q. 培養を抗菌薬投与前に採取するのはなぜですか?

投与後では菌が検出されにくくなり、起因菌が同定できなくなるためです。起因菌が分からなければ、広域抗菌薬から狭域へ切り替える判断ができず、漫然と広い治療を続けることになります。ただし敗血症や細菌性髄膜炎のように一刻を争う病態では、培養採取のために抗菌薬の開始を大きく遅らせるべきではありません。

Q. 非定型肺炎と細菌性肺炎はどう見分けますか?

年齢が比較的若い、基礎疾患がない、頑固な乾性咳嗽が主体、聴診所見が画像所見に比べて乏しい、末梢血白血球数が著明には増加しない、といった特徴が非定型肺炎を示唆します。マイコプラズマは細胞壁を持たず、クラミジアやレジオネラは細胞内で増殖するため、いずれもβ-ラクタム系ではなくマクロライド系・テトラサイクリン系・キノロン系を選択します。

Q. 耐性の機序は何種類ありますか?

大きく4つです。薬剤を分解する酵素の産生(β-ラクタマーゼなど)、薬剤の標的部位の変化(MRSAのペニシリン結合タンパクの変化など)、細胞内への透過性の低下(ポーリンの減少)、そして薬剤排出ポンプによる汲み出しです。実際の多剤耐性菌では、これらが複合して起こっていることが少なくありません。

Q. ウイルス感染に抗菌薬が効かないのはなぜですか?

抗菌薬が標的とする構造をウイルスが持たないためです。ウイルスは細胞壁も細菌型リボソームも独自の葉酸合成経路も持たず、宿主細胞の仕組みを借りて増殖します。したがって抗菌薬の攻撃点が存在しません。抗ウイルス薬は、ウイルスに固有の酵素や侵入・放出の過程を標的として設計されています。

参考資料

・厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 別冊(入院患者の感染症で問題となる微生物について)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001169114.pdf

・AMR臨床リファレンスセンター「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 別冊」解説ページ
https://amr.jihs.go.jp/app/tebiki_bessatsu.html

・日本集中治療医学会/日本救急医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024)」
https://www.jsicm.org/pdf/cq/J-SSCG2024/J-SSCG2024_Main.pdf

・日本救急医学会「J-SSCG2024 初期治療とケアバンドル」
https://www.jaam.jp/info/2024/files/bundle.pdf

・厚生労働省「医師国家試験」および「医師国家試験出題基準(ガイドライン)」(厚生労働省ウェブサイト内の資格・試験情報ページを参照)

著者プロフィール

東大医学部卒講師(現役医師)

略歴:

PMD医学部専門予備校およびCES医師国家試験予備校で講師として指導中。
医学教育・国試対策に関する豊富な実務経験をもとに監修・執筆を担当。

運営 CES医師国試予備校(株式会社アクト)

〒810-0041 福岡市中央区大名2-11-25 新栄ビル6F(地下鉄赤坂駅より徒歩2分)/TEL 0120-406-707・092-406-7099

※本記事は医師国家試験対策の学習を目的とした教育コンテンツです。実際の診療における判断は最新のガイドラインおよび各施設の方針に従ってください。