【CES医師国試たとえシリーズ⑧】心電図を「電車の路線図」で攻略|P波・QRS・ST変化を8ステップで読む

心電図は、医師国家試験で「見た瞬間に諦めてしまう受験生が最も多い」領域です。12誘導の波形が並んだ画像を見せられ、「この心電図から考えられる病態はどれか」と問われる。しかし波形を眺めても、どこを見ればいいのかわからない。結果として、代表的な波形の「見た目」を写真のように丸暗記しようとして挫折します。

本記事では、刺激伝導系を「鉄道路線」に見立てます。洞結節は始発駅、房室結節は乗り換え駅、右脚と左脚は分岐した2本の路線。そして心電図とは、この路線のどこを電車が走っているかを記録した運行記録にほかなりません。この視点を持つと、P波が消えるとは何が起きたのか、QRSが幅広いとは何を意味するのかが、波形の暗記なしに説明できるようになります。確認テスト5問(解答は折りたたみ式)付きです。

この記事の結論(3行まとめ)

① 心電図の各波形は「電車が今どの区間を走っているか」の記録です。P波=心房区間、QRS=心室区間、ST-T=折り返しの整備時間。

② 不整脈は「始発駅で止まった(洞不全)」「乗り換え駅で足止め(房室ブロック)」「勝手に走り出す電車がいる(期外収縮・頻脈)」の3つに整理できます。

③ 頻脈はQRS幅で仕分ける。狭ければ正規ルートを通っている=上室性、広ければ線路外を無理やり走っている=心室性が疑われ、緊急度が跳ね上がります。

目次
  1. 刺激伝導系=鉄道路線に置き換える
  2. 波形の意味と正常値
  3. 心電図を読む8ステップ
  4. 徐脈:始発が止まる/乗り換え駅で足止め
  5. 頻脈:QRS幅で仕分ける
  6. 脚ブロック:分岐路線の片方が不通
  7. ST変化:路線が停電しているサイン
  8. 電解質異常とQT延長
  9. 国試で狙われる引っかけポイント
  10. 確認テスト(全5問・解答は折りたたみ)
  11. よくある質問(FAQ)

1. 刺激伝導系=鉄道路線に置き換える

心臓を、決められたダイヤで電車を走らせる鉄道会社だと考えてください。始発駅(洞結節)から1分間に60〜100本の電車が発車し、心房という区間を走り抜けて乗り換え駅(房室結節)に到着します。ここで意図的に少し停車したのち、単線トンネル(His束)を通って2本の路線(右脚・左脚)に分岐し、末端の支線(Purkinje線維)を通じて心室全体へ一斉に届きます。

鉄道路線 刺激伝導系での対応 心電図での表れ
始発駅(ダイヤを決める) 洞結節(60〜100回/分) 規則的なP波の出現
始発〜乗り換え駅の区間 心房の興奮 P波
乗り換え駅での停車時間 房室結節での伝導遅延 PQ(PR)間隔
単線トンネル His束 (体表心電図では直接見えない)
分岐した2本の路線 右脚・左脚 片方が不通ならQRS幅が延びる
全線を一斉に走る区間 心室の興奮 QRS波
車両の折り返し整備 心室の再分極 ST部分・T波

なぜ乗り換え駅でわざわざ停車するのか:房室結節の伝導遅延は欠陥ではなく設計です。心房が収縮して血液を心室へ送り込む時間を確保するために、あえて0.1秒前後の間を置いています。この乗り換えの時間があるからこそ心室は満タンで発車できる。PQ間隔とは、この計画的な乗り換え時間の記録にほかなりません。

代替運行のしくみ:始発駅が止まっても電車が完全に消えるわけではありません。房室接合部が1分間に40〜60本、心室が20〜40本という遅いダイヤで補充調律を走らせます。下位の駅ほどダイヤが遅い——この階層構造が、完全房室ブロックで徐脈になる理由です。

2. 波形の意味と正常値
項目 意味 おおよその正常範囲 異常が示すもの
P波 心房の興奮 幅0.12秒未満、高さ0.25mV未満 消失=心房細動、増高=右房負荷、二峰性=左房負荷
PQ間隔 乗り換え駅での停車時間 0.12〜0.20秒 延長=房室ブロック、短縮+デルタ波=WPW症候群
QRS幅 心室が興奮しきる所要時間 0.12秒未満(0.12秒以上で幅広) 幅広=脚ブロック、心室由来の興奮、WPW
ST部分 心室が全体として興奮している時期 基線と同じ高さ 上昇=貫壁性の虚血、低下=心内膜下虚血など
T波 心室の再分極 左右非対称、なだらか 尖鋭化=高K血症、左右対称の陰性=虚血(冠性T)
QT間隔 興奮開始から再分極完了まで 心拍数で補正して評価 延長=torsades de pointesのリスク

記録紙と心拍数の計算

標準の記録速度は毎秒25mm。したがって小さいマス1つ(1mm)が0.04秒、大きいマス1つ(5mm)が0.20秒です。縦軸は10mm=1mV。

心拍数の暗算 規則的なリズムなら、R波とR波の間にある大きいマスの数で300を割ります(大マス3個なら100回/分、5個なら60回/分)。不規則なリズムでは、6秒間に含まれるQRSの数を10倍します。心房細動のように間隔がばらつく場合は後者を使います。

3. 心電図を読む8ステップ

波形を漫然と眺めるのではなく、毎回同じ順序で確認します。この順序を固定することが、心電図が読めるようになる最短ルートです。

STEP 1 調律を確認する

P波はあるか。P波とQRSは1対1で対応しているか。間隔は規則的か。「始発駅から正しく発車しているか」を見る工程です。

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STEP 2 心拍数を出す

60回/分未満は徐脈、100回/分を超えれば頻脈。以降の鑑別の入口になります。

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STEP 3 電気軸を見る

I誘導とaVF誘導のQRSがともに上向きなら正常軸。軸偏位は肥大や脚ブロックの手がかりになります。

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STEP 4 P波の形を見る

増高していれば右房負荷、幅広く二峰性なら左房負荷を示唆します。

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STEP 5 PQ間隔を測る

延長していれば房室ブロック。短くてQRSの立ち上がりが鈍ければWPW症候群を疑います。

▼

STEP 6 QRSの幅と形を見る

幅が0.12秒以上なら脚ブロックか心室由来の興奮。頻脈の症例では、この一点が緊急度を決めます。異常Q波があれば陳旧性心筋梗塞を考えます。

▼

STEP 7 ST-Tを見る

上昇か低下か、そしてどの誘導に出ているか。誘導の組み合わせが、そのまま虚血部位と責任血管を教えてくれます。

▼

STEP 8 QT間隔を確認する

延長があれば、電解質異常や薬剤性を疑い、致死性不整脈のリスクとして扱います。

4. 徐脈:始発が止まる/乗り換え駅で足止め

徐脈は「始発駅の問題(洞不全症候群)」と「乗り換え駅から先の問題(房室ブロック)」に大別されます。P波があるかどうかが最初の分岐点です。

洞不全症候群 ── 始発駅の運行トラブル

そもそも電車が発車しない、あるいは発車間隔が延びてしまう状態です。持続する洞徐脈、一時的に発車が途絶える洞停止・洞房ブロック、そして頻脈と徐脈が交互に現れる徐脈頻脈症候群に分類されます。

めまい、失神(Adams-Stokes発作)、易疲労感といった症状を伴う場合にペースメーカの適応が検討されます。無症状の洞徐脈は、アスリートなどでは生理的でありうる点にも注意が必要です。

房室ブロック 鉄道での例え 心電図所見 臨床的意義
I度 停車時間が長いが、全便きちんと発車 PQ間隔が0.20秒を超えるが、QRSの脱落はない 無症状なら経過観察
II度
Wenckebach型
(Mobitz I型)
停車時間が少しずつ延び、ついに1本運休。翌便から元に戻る PQ間隔が漸次延長し、やがてQRSが1拍脱落する 障害部位は房室結節内。比較的予後良好
II度
Mobitz II型
予告なく突然運休。前触れがない PQ間隔は一定のまま、突然QRSが脱落する 障害部位はHis束以下。完全房室ブロックへ移行しやすくペースメーカを検討
III度
(完全房室ブロック)
乗り換え駅が完全遮断。上りと下りが別ダイヤで無関係に運行 P波とQRSがそれぞれ独立した間隔で出現(房室解離)。QRSは補充調律で徐脈 失神・心不全のリスク。ペースメーカの適応

WenckebachとMobitz IIの決定的な違い:前者は「じわじわ遅れて、ついに1本落ちる」ためPQ間隔が徐々に延びる。後者は「予告なく落ちる」ためPQ間隔が一定のまま突然脱落する。この違いは障害部位の違いを反映しており、Mobitz II型のほうが下位(His束以下)で危険度が高い、という因果まで押さえておくと選択肢に迷いません。

5. 頻脈:QRS幅で仕分ける

頻脈を見たら、まずQRSの幅を見ます。これは「電車が正規の高速路線を通っているのか、それとも線路のない場所を無理やり走っているのか」を問う質問です。

QRSが狭い(narrow QRS) 興奮が正規の刺激伝導系を通って心室に届いている証拠です。つまり発生源は心室より上(心房または房室接合部)=上室性。高速路線を使っているので短時間で全線に届き、QRSは細く鋭い形になります。

QRSが広い(wide QRS) 興奮が心室の筋肉を直接、細胞から細胞へと伝わっている状態。各駅停車で回り道をしているため時間がかかり、QRSは幅広くいびつになります。心室頻拍を第一に考えるべきで、緊急度が跳ね上がります。(脚ブロックを伴う上室性頻拍でも幅広くなりますが、まず心室頻拍として対応するのが安全です。)

不整脈 特徴的な心電図所見 押さえるべき点
心房細動 P波が消失し細動波(f波)に置き換わる。RR間隔が絶対的に不規則 心房内に血栓ができ心原性脳塞栓症の原因に。抗凝固療法の適応を評価する
心房粗動 鋸歯状の粗動波(F波)。2対1伝導なら心室応答は規則的で約150回/分となる 規則的な鋸歯状波を見たらまず想起する。血栓リスクは心房細動に準じる
発作性上室頻拍 規則正しい幅の狭いQRSが突然始まり突然止まる 血行動態が安定していれば迷走神経刺激法、次いで薬物治療
WPW症候群 PQ間隔の短縮、QRS立ち上がりの鈍化(デルタ波)、QRS幅の延長 乗り換え駅を迂回する抜け道(副伝導路)が存在する状態
心室頻拍 幅広いQRSが規則的に連続。房室解離を伴うことがある 血行動態が不安定なら同期下カルディオバージョン
心室細動 基線が無秩序に揺れ、QRSとして識別できる波形がない 心停止。ただちに胸骨圧迫と非同期の除細動
torsades de pointes QRSの振幅と極性がねじれるように変動する多形性心室頻拍 背景にQT延長。薬剤性・電解質異常を検索する

同期と非同期の違いは必ず区別する:心室頻拍のようにQRSが識別できる頻脈では、R波に同期させて通電します(同期下カルディオバージョン)。一方心室細動では同期させるべきR波が存在しないため、非同期での除細動を行います。「心室細動に同期下カルディオバージョン」という選択肢は原理的に誤りです。

WPW症候群に心房細動を合併した場合の注意:房室結節の伝導を抑える薬剤を用いると、心房の速い興奮が抜け道である副伝導路を通って心室へ大量に流れ込み、心室細動に至る危険があります。乗り換え駅を封鎖したせいで、全ての電車が迂回路に殺到する——という構図です。この禁忌は国試の頻出項目です。

6. 脚ブロック:分岐路線の片方が不通

右脚と左脚のどちらかが不通になると、その側の心室へは健常な側から回り道で興奮が伝わることになります。遠回りする分だけ時間がかかり、QRSの幅が延びる——これが脚ブロックの本質です。

項目 右脚ブロック 左脚ブロック
V1誘導 rsR′型(M字型の二峰性) rS型またはQS型(深い下向き)
V5・V6誘導 幅の広いS波 幅広くノッチのあるR波
臨床的意義 健常者にもみられ、それ自体は無症状のことが多い 基礎心疾患を伴うことが多い。新規出現は心筋梗塞を示唆しうる
ST評価への影響 比較的影響が小さい ST-Tが二次的に変化するため、虚血の判定が困難になる

7. ST変化:路線が停電しているサイン

ST部分は、心室全体が興奮しきって電位差がなくなる時間帯にあたるため、正常では基線と同じ高さになります。ここがずれるということは、心筋のどこかに電気的に異常な領域がある——路線の一部が停電している——ことを意味します。

ST上昇 心筋の壁全体に及ぶ虚血(貫壁性)を示唆し、ST上昇型心筋梗塞では緊急の再灌流療法が必要です。ただし心膜炎(広範な誘導での凹型上昇とPR部分の低下)、早期再分極、Brugada症候群、たこつぼ型心筋症などでも上昇するため、ST上昇=必ず心筋梗塞ではありません。

ST低下 心内膜側優位の虚血を示唆します。労作性狭心症の運動負荷試験で陽性所見となるほか、左室肥大に伴う変化、ジギタリスによる盆状の低下などもあります。

異常Q波 幅と深さが基準を超えるQ波は、その領域の心筋が壊死して電気的に沈黙していることを示し、陳旧性心筋梗塞の所見となります。

ST上昇の誘導 梗塞部位 主な責任血管 注意点
II・III・aVF 下壁 多くの場合、右冠動脈 徐脈・房室ブロックを伴いやすい。右室梗塞の合併に注意
V1〜V4 前壁中隔 左前下行枝 広範囲となりやすく心不全・ショックのリスクが高い
I・aVL・V5・V6 側壁 左回旋枝など 左前下行枝の側枝が原因のこともある
V1・V2でST低下+高いR波 後壁 左回旋枝・右冠動脈 通常の12誘導では鏡像として現れる。背部誘導の追加を検討

鏡像変化(reciprocal change):ある誘導でSTが上昇していると、反対側から見ている誘導ではST低下として写ります。これは別の病変ではなく同じ現象を裏から見ているだけであり、むしろ心筋梗塞であることを支持する所見です。

下壁梗塞と右室梗塞:下壁梗塞では右冠動脈の閉塞に伴い右室梗塞を合併することがあります。右室梗塞では前負荷への依存度が高いため、硝酸薬などで前負荷を下げると急激に血圧が低下します。下壁梗塞を見たら右側胸部誘導の追加を考える、という流れが問われます。

8. 電解質異常とQT延長

高カリウム血症 T波が幅の狭い尖った形になる(テント状T波)ことから始まり、進行するとP波が平坦化しPQ間隔が延び、さらにQRS幅が延長していきます。最終的には波形の区別がつかない正弦波様となり、心室細動・心停止に至ります。心電図変化を伴う高カリウム血症では、まずカルシウム製剤の静注で心筋を保護し、その後にカリウムを細胞内へ移動させ、最終的に体外へ除去します。

低カリウム血症 T波が平低化し、U波が目立つようになります。QT間隔が延びたように見え、不整脈のリスクが高まります。

カルシウム 高カルシウム血症でQT短縮、低カルシウム血症でQT延長。「Caが多いと早く終わる」と対応づけると混乱しません。

QT延長症候群

QT間隔の延長は、心室が再分極を終える前に次の興奮が入り込む余地を生み、torsades de pointesという多形性心室頻拍を誘発します。原因は先天性のほか、抗不整脈薬・一部の抗菌薬・抗精神病薬などの薬剤性、そして低カリウム血症・低マグネシウム血症・低カルシウム血症などの電解質異常が挙げられます。失神の既往がある患者では、心電図でQT間隔を必ず確認するという発想が問われます。

9. 国試で狙われる引っかけポイント

①「心室細動に同期下カルディオバージョン」→ 原理的に誤り。同期させるR波が存在しません。非同期の除細動を直ちに行います。

②「ST上昇があるので心筋梗塞と確定」→ 心膜炎、早期再分極、たこつぼ型心筋症などでも上昇します。誘導の分布と臨床像を併せて判断します。

③「WPW症候群に心房細動を合併したので房室伝導を抑える薬を投与」→ 危険。副伝導路を介した心室応答が増え、心室細動を招きうる組み合わせです。

④「幅広いQRSの頻脈だが安定しているので上室性と判断」→ 危険。wide QRS頻拍はまず心室頻拍として扱うのが原則です。

⑤「下壁梗塞で血圧が低いので硝酸薬を追加」→ 右室梗塞を合併していれば血圧がさらに低下します。前負荷依存性を意識してください。

⑥「心房細動だがレートが落ち着いているので抗凝固は不要」→ 誤り。塞栓症のリスクは心拍数ではなく心房内の血流うっ滞によるものです。リスク評価に基づいて抗凝固療法を検討します。

⑦「左脚ブロックがあるがSTは正常なので虚血は否定的」→ 左脚ブロックでは二次性のST-T変化が生じ、虚血の判定そのものが困難になります。

10. 確認テスト(全5問)

解答・解説は折りたたんであります。まず自分の答えを決めてから「▼ 解答・解説を見る」をクリック(タップ)して確認してください。

第1問

Ⅱ度房室ブロックMobitz II型について正しいのはどれか。

a PQ間隔が徐々に延長したのちQRSが脱落する

b PQ間隔は一定のまま突然QRSが脱落する

c 障害部位は房室結節内であることが多い

d 予後は良好で治療を要さない

e P波とQRSが完全に無関係に出現する

▼ 解答・解説を見る

解答:b

Mobitz II型は「予告なく運休する」タイプで、PQ間隔が一定のまま突然QRSが脱落します。障害部位はHis束以下と下位にあり(cが誤り)、完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカが検討されます(dが誤り)。

aはWenckebach型(Mobitz I型)の記述で、こちらは房室結節内の障害で比較的予後良好。eは完全房室ブロック(房室解離)の記述です。「じわじわ遅れて落ちる」か「予告なく落ちる」かで識別してください。

第2問

心房細動の心電図所見として正しいのはどれか。2つ選べ。

a 明瞭なP波を認める

b RR間隔が絶対的に不規則である

c 基線が細かく揺れる細動波を認める

d QRS幅が必ず0.12秒以上となる

e 鋸歯状の粗動波を認める

▼ 解答・解説を見る

解答:b、c

心房が無秩序に興奮するため、規則的なP波は消失して細動波に置き換わり(aが誤り)、房室結節を通過するタイミングが不規則になるためRR間隔が絶対的に不規則になります。

興奮は正規の刺激伝導系を通って心室に届くため、QRS幅は通常狭いまま(dが誤り)。鋸歯状の粗動波は心房粗動の所見です(eが誤り)。心房収縮が失われることによる心拍出量の低下と、心房内血栓による塞栓症が臨床上の二大問題になります。

第3問

64歳男性。1時間前からの胸痛。心電図でII・III・aVF誘導のST上昇を認め、I・aVL誘導ではST低下を認める。最も考えられる責任血管と、合併に注意すべき病態の組合せはどれか。

a 左前下行枝 ── 右室梗塞

b 右冠動脈 ── 右室梗塞

c 左回旋枝 ── 心室中隔穿孔

d 左前下行枝 ── 大動脈解離

e 右冠動脈 ── 急性心膜炎

▼ 解答・解説を見る

解答:b

II・III・aVFのST上昇は下壁の梗塞を示し、責任血管は多くの場合右冠動脈です。I・aVLのST低下は、同じ現象を反対方向から見た鏡像変化であり、別の病変ではありません。

右冠動脈は右室も灌流するため右室梗塞の合併に注意が必要で、この場合前負荷を下げる硝酸薬などで急激な血圧低下をきたします。右側胸部誘導の追加が診断の助けになります。また下壁梗塞では徐脈や房室ブロックを伴いやすい点も併せて押さえてください。

第4問

高カリウム血症の心電図変化として、最も早期に出現するのはどれか。

a QRS幅の延長

b テント状T波

c U波の出現

d QT間隔の短縮

e デルタ波の出現

▼ 解答・解説を見る

解答:b

高カリウム血症では、まず幅の狭い尖ったT波(テント状T波)が現れ、進行するとP波の平坦化とPQ間隔の延長、さらにQRS幅の延長へと至り、最終的に正弦波様となって心室細動・心停止を招きます。出現の順序を問う設問が頻出です。

U波の出現は低カリウム血症(cが誤り)、QT短縮は高カルシウム血症(dが誤り)、デルタ波はWPW症候群の所見です(eが誤り)。心電図変化を伴う場合、まずカルシウム製剤の静注で心筋膜を安定化させます。

第5問

院内で意識を消失した患者。頸動脈は触知せず、モニター心電図では基線が無秩序に振れQRSとして識別できる波形を認めない。最も適切な対応はどれか。

a 同期下カルディオバージョンを行う

b 胸骨圧迫を開始し、非同期での除細動を行う

c アトロピンを静注する

d 経過を観察し12誘導心電図を記録する

e 迷走神経刺激法を試みる

▼ 解答・解説を見る

解答:b

脈が触れず、QRSが識別できない無秩序な波形——心室細動であり心停止の状態です。ただちに胸骨圧迫を開始し、非同期での除細動を行います。

同期下カルディオバージョンはR波に同期させて通電する方法ですが、心室細動では同期すべきR波が存在しないため実施できません(aが誤り)。アトロピンは徐脈への薬剤(cが誤り)、迷走神経刺激法は血行動態の安定した発作性上室頻拍への手技(eが誤り)。12誘導の記録を優先することは、蘇生の遅れという致命的な判断になります(dが誤り)。

まとめ:波形を覚えるのではなく、運行状況を読む

心電図は、刺激という電車がどの区間をどう走ったかの運行記録です。P波がなければ始発駅が機能していない、PQが延びれば乗り換え駅で足止めされている、QRSが広ければ正規路線を通っていない、STがずれていればどこかの区間が停電している。波形の見た目を写真として暗記するのではなく、路線のどこで何が起きたかを言語化する——これが心電図を読めるようになる道筋です。

そして読影は必ず同じ8ステップで行うこと。順序を固定すれば、見落としが減り、判断の速度も上がります。循環(ショック)、呼吸(呼吸不全)、腎(AKI・CKD)、代謝(糖尿病)、感染症、脳卒中で共通していた「故障箇所を特定してから手を打つ」という思考が、心電図では最も visual な形で現れているのだと考えてください。

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よくある質問

Q. P波が見当たらない心電図では何を考えますか?

まず心房細動を考えます。心房が無秩序に興奮するため規則的なP波が消え、基線が細かく揺れ、RR間隔が絶対的に不規則になります。P波が明瞭でない場合はほかに、心房粗動(鋸歯状の粗動波)、接合部調律、心室由来の調律なども鑑別に入ります。

Q. QRSが狭いか広いかで、なぜ緊急度が変わるのですか?

QRSが狭いということは、興奮が正規の刺激伝導系を通って心室に届いている証拠であり、発生源が心室より上にあることを意味します。一方QRSが広い場合は心室由来の興奮が疑われ、心室頻拍から心室細動へ移行する危険があります。幅広いQRSの頻脈は、まず心室頻拍として扱うのが安全な原則です。

Q. Wenckebach型とMobitz II型は臨床的にどう違うのですか?

障害されている場所が違います。Wenckebach型は房室結節内の障害で、PQ間隔が徐々に延長してから脱落し、比較的予後良好です。Mobitz II型はHis束以下の障害で、PQ間隔が一定のまま突然脱落し、完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカが検討されます。下位の障害ほど危険という原則で理解できます。

Q. ST上昇があれば必ず心筋梗塞ですか?

いいえ。急性心膜炎(広い範囲での凹型のST上昇とPR部分の低下)、早期再分極、Brugada症候群、たこつぼ型心筋症などでもST上昇が生じます。心筋梗塞では冠動脈の支配領域に一致した誘導にST上昇が現れ、しばしば反対側の誘導に鏡像変化を伴う点が鑑別の手がかりになります。

Q. 心拍数はどう暗算しますか?

リズムが規則的なら、R波とR波の間にある大きいマスの数で300を割ります。大マス3個なら100回/分、5個なら60回/分です。心房細動のようにリズムが不規則な場合は、この方法が使えないため、6秒間に含まれるQRSの数を10倍して求めます。

Q. WPW症候群で最も注意すべき点は何ですか?

心房細動を合併した場合です。房室結節の伝導を抑える薬剤を投与すると、心房の速い興奮が副伝導路(房室結節を迂回する抜け道)を通って心室へ大量に伝わり、心室細動を招く危険があります。心電図所見はPQ間隔の短縮、デルタ波、QRS幅の延長の3点です。

参考資料

・日本循環器学会/日本不整脈心電学会「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Ono.pdf

・日本循環器学会 ガイドラインシリーズ(不整脈の診断とリスク評価、不整脈非薬物治療、急性冠症候群ほか)
https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/

・日本循環器学会「2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf

・厚生労働省「医師国家試験」および「医師国家試験出題基準(ガイドライン)」(厚生労働省ウェブサイト内の資格・試験情報ページを参照)

著者プロフィール

東大医学部卒講師(現役医師)

略歴:

PMD医学部専門予備校およびCES医師国家試験予備校で講師として指導中。
医学教育・国試対策に関する豊富な実務経験をもとに監修・執筆を担当。

運営 CES医師国試予備校(株式会社アクト)

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※本記事は医師国家試験対策の学習を目的とした教育コンテンツです。実際の診療における判断は最新のガイドラインおよび各施設の方針に従ってください。