119F60・61・62問題解説|医師国家試験の連問の解き方は”症例文の分解”
医師国家試験の特徴のひとつが「連問」です。連問とは1つの症例文を読んで、①診断 ②検査 ③治療 などを連続して問う形式で、時間を消費しやすく、また鑑別疾患や治療方針を誤ると数点が飛んでしまう、いわば差がつきやすいパートとなります。
しかし実は、連問には明確な「解答手順」が存在します。
この記事では以下の内容をまとめて解説します。
- 連問で得点を落とさない読み方
- 症例文の分解方法
- 過去問形式の例題+解説(119F60・61・62)
参考:厚生労働省「第119回医師国家試験問題」より
1連問で最も重要なのは「症例文のどこを見るか」
〜症例文を”分解”して、連問を一気に攻略する方法〜
連問は症例文がすべてのヒントになります。逆に言えば、症例文を正しく読めば2問・3問まとめて正解できると言っても良い形式です。
【連問の読み方 3ステップ】
① 年齢、性別、主訴、発症様式をまずは押さえる
序盤の数行からすでに解答のプロセスは始まっています。単問の臨床問題であれば大きく重要にならないことも多いですが、連問形式では疾患病態が単問の際より不明瞭に描写されていることが多いことから、
- 急性か?慢性か?
- 外傷歴は?
- 既往は?
- 臨床経過は?
といった「疾患鑑別に使用しうる文章」は非常に重要です。ここが疾患カテゴリーを絞る「最初のフィルター」となります。
② バイタルと緊急度
バイタルサインの確認を通して、ショックの判断を行うことも重要です。バイタルの評価が治療の優先順位につながるからです。バイタルサインが崩れていたら、まずはバイタルを安定化させる選択肢を選びましょう。
③ 病歴・身体所見・検査値の「決定的サイン」を見逃さない
連問は必ず「鑑別の決め手」を入れてくる一方で、文章が長くそのサインを見逃しがちです。サインを見つける作業は単問形式のものでも十分に演習できるため、長文問題でもこうしたサインを見逃さないことが鍵となります。
2連問攻略の鉄則
✔ 1問目=”診断”の問題。ここでミスると後の問題が失点しやすくなる
連問は
- 1問目:診断
- 2問目:検査
- 3問目:治療
といった実際の診療に沿った設問が多いため、概して1問目から方針を誤ると連続で誤答する可能性が高くなってしまいます。1問目の読み取りがその後の方針に影響するため、慎重に鑑別を進めましょう。
✔ 後ろの問題の選択肢を先に確認して”想定疾患”を逆算するのも可
連問特有のテクニックではありますが、後の問題の選択肢もヒントとなり得ます。
例えば後の選択肢に「ステロイド、免疫抑制、抗菌薬、利尿薬…」と並んでいれば、腎臓、免疫系と鑑別疾患がかなり絞れてくることがあります。
3実際の国試の連問で解説【119F60・61・62】
ここからは、国試の本試験問題を提示し、その後に”連問特有の解き方”を解説します。今回は119回国家試験のF60〜62を取り上げます。
第119回医師国家試験 F60〜62
次の文を読み、60〜62の問いに答えよ。
76歳の男性。強いふらつきを主訴に救急車で搬入された。
現病歴:
3か月前から倦怠感やふらつきが目立ち、寒がるようになった。動作緩慢、便秘および経口摂取減少も出現したが加齢によるものと本人が思い様子をみていた。本日、倦怠感とふらつきが増強したため妻が救急車を要請した。
既往歴:
1年4か月前に中咽頭癌に対し化学放射線療法が施行され、6か月ごとに定期通院中。
生活歴:
70歳まで会社役員。妻と2人暮らし。喫煙歴はない。飲酒は日本酒1〜2合/日を40年間。
家族歴:
弟が慢性肝炎。
現症:
意識は清明。身長165 cm、体重60 kg。体温35.8℃。心拍数48/分、整。血圧98/68 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 97%(room air)。皮膚は乾燥しているが、色素沈着は認めない。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。口腔内は乾燥しているが、咽頭発赤は認めない。頸静脈の怒張を認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。
検査所見:
尿所見:蛋白(−)、糖(−)、ケトン体(−)、潜血(−)。血液所見:赤血球362万、Hb 11.7 g/dL、Ht 35%、白血球4,100、血小板14万。血液生化学所見:総蛋白6.3 g/dL、総ビリルビン0.5 mg/dL、AST 34 U/L、ALT 32 U/L、LD 220 U/L(基準124〜222)、尿素窒素15 mg/dL、クレアチニン1.1 mg/dL、血糖92 mg/dL、総コレステロール288 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 2.8 mEq/L、Cl 101 mEq/L、TSH 98 μU/mL(基準0.2〜4.0)、FT3 1.8 pg/mL(基準2.3〜4.3)、FT4 0.1 ng/dL(基準0.8〜2.2)、コルチゾール12.4 μg/dL(基準5.2〜12.6)。CRP 0.1 mg/dL。心電図は洞性徐脈でST-T変化を認めない。胸部エックス線写真で心胸郭比48%。
60
この患者で予測される身体所見はどれか。2つ選べ。
- a 多毛
- b 甲状腺圧痛
- c 両手指振戦
- d 非圧痕性浮腫
- e アキレス腱反射弛緩相遅延
61
この患者の血液検査で高値と予想されるのはどれか。2つ選べ。
- a ALP
- b アルブミン
- c クレアチンキナーゼ
- d LDLコレステロール
- e 抗TSH受容体抗体〈TRAb〉
62
初療室で輸液を開始した。
次に行う対応で適切なのはどれか。
- a 利尿薬静注
- b ヨウ素含有食品摂取
- c 甲状腺ホルモン薬内服
- d 脂質異常症治療薬内服
- e 塩化カリウム液急速静注
出典:厚生労働省「第119回医師国家試験問題」(令和7年2月実施)
Step1. まず症例文を”構造的に”読む
まずは問題文から必要な要素や特徴を抜き出しましょう。
▼ 主訴
強いふらつき・倦怠感・ふらつき・寒がり → 低代謝状態を示唆している所見
▼ 現病歴
- 3ヶ月の徐々な寒がり・便秘・倦怠感 → 甲状腺機能低下症の典型
- 高齢
- 徐々に食欲低下し体重60kgで体温35.8℃ → 低体温(バイタルの崩れ)は重要所見
▼ 既往
中咽頭癌の化学放射線療法 → 頸部の放射線治療歴あり → 甲状腺関連のあたりをつける
▼ 身体所見
- 徐脈(48/min)
- 低体温(35.8℃)
- 血圧 98/68 mmHg(低め)
- 皮膚乾燥
▼ 血液データ
- FT4:0.1 ng/dL(著明低下)
- TSH:98 μIU/mL(著明上昇) → 甲状腺機能低下症は確定
- コルチゾール 12.4 μg/dL(正常下限) → 副腎は問題なし
- Na 138、K 2.8 → 全体的に電解質も低値傾向
Step2. 臨床診断を確定させる
この症例は
- 高齢
- 徐脈
- 低体温
- 低代謝症状(便秘・寒がり・乏力)
- 無治療の甲状腺機能低下
- TSH著明高値、FT4著減
- 意識清明だが徐脈傾向、血圧も低値
と特徴的な所見が並んでおり、この情報のもとでは甲状腺機能低下症の重症型(粘液水腫性昏睡の前段階)と判断しても良い状況です。早急に治療が必要な病態となるため、以下の選択肢で選ぶべきものが明確化します。
鑑別診断を適切にあげ、確実に臨床診断名をつけられるようになると、後ろの問題が安定して解けるようになります。
Step3. 各問題に回答していく
F60:予想される身体所見 2つ
選択肢を見ると身体所見を問う問題となっています。甲状腺機能低下症と診断がつけられているので、あとは合致するものを選択しましょう。
▼ 各選択肢の検討
- a 多毛 → 甲状腺機能低下症ではむしろ脱毛が顕著となります。×
- b 甲状腺圧痛 → 圧痛は亜急性甲状腺炎に特徴的です。慢性経過では圧痛は出現しません。×
- c 両手振戦 → 振戦は甲状腺機能亢進(バセドウ)の所見です。×
- d 非圧痕性浮腫(myxedema) → 非圧痕性浮腫、粘液水腫は甲状腺機能低下の典型です。○
- e アキレス腱反射弛緩相遅延 → 甲状腺機能低下症の身体所見です。○
✔ よってF60の正解はd・eとなります
F61:血液検査で高値と予想されるのはどれか(2つ)
甲状腺機能低下症で特徴的に上昇するのは以下が有名です:
- コレステロール(LDL・総コレステロール)
- CK(Creatine kinase)
LDLの合成亢進・分解低下により脂質上昇
✔ 以上より、正解はc・dとなります
F62:次に行うべき治療はどれか
輸液を開始したあと次に行うべきことを問う問題です。ここで診断を正確につけた恩恵が出てきます。
甲状腺機能低下症の重症型(粘液水腫性昏睡)の治療は
- 甲状腺ホルモン補充(T₄静注 or 内服)
- 低体温管理
- 循環管理・呼吸管理
が初療の段階では原則となります。
✔ したがって正解はcの甲状腺ホルモン補充となります
4まとめ:連問を解く際に気をつけるべきポイント
連問は方針を誤ると失点リスクが高いですが、逆に診断名さえ正確につけられれば得点が見込めます。以下のポイントに注意して症例文を構造的に読み、安定した得点源にしてしまいましょう。
- ✔ 症例文は主訴 → 発症様式 → vital → キーワードの順で読む
- ✔ 1問目(診断)が最重要。ここで外すと後半は取れない
- ✔ 選択肢を先読みして”疾患を予測”するのも有効
- ✔ 「治療の優先順位」を理解していると第2問以降が自動的に解ける

