medu4終了はなぜ起きた?サービス終了が示す「医師国家試験対策の転換点」

medu4サービス終了と医師国試の今後について考える

medu4新規受付終了の衝撃

先日、2025年12月末をもって、医師国家試験対策動画サービス「medu4」が新規受付を終了することが発表されました。
長年にわたり、医学生の国試学習を支えてきた代表的なサービスの一区切りということで、多くの医学生・卒業生の間で驚きとともにさまざまな反応が広がっています。

しかし今回の出来事は、単なるサービス終了のニュースではなく、医師国家試験そのものの転換点を示す重要な出来事を示唆している可能性が考えられます。

1. medu4が果たした役割

medu4はQ-Assistと並んで2015年に登場し、以降の国試対策に大きな影響を与えたオンライン講義プラットフォームです。
それまでの「集合講義+紙のテキスト」という形から一歩進み、「体系的な動画講義+スライド教材」というスタイルで、時間や場所にとらわれない学習を可能にしました。多くの学生がこの教材を通して臨床医学の全体像をつかみ、国家試験合格への大きな支えとなってきたことは間違いありません。

2. サービス終了の背景にある変化

Medu4がサービスを終了する背景には、いくつかの構造的な要因があると考えられます。

(1)国試の「CBT化」への移行

ここ数年、国試の出題傾向はより「知識問題」ではなく「臨床的思考力」や「総合判断力」を問う方向に変化しています。
また、近い将来には国試そのものがCBT(Computer-Based Testing)形式へ完全移行することが見込まれています。実際に厚生労働省が医師国家試験のCBT化に向けた研究班を発足しています。
この流れの中では、「講義の視聴のみ知識を詰める」という従来型の学習スタイルは徐々に限界を迎えると考えられます。これからは、症例をもとに自分で考え、判断するトレーニングが求められる時代になる可能性が高くなりうると思われます。

(2)学習コンテンツ市場の変化

YouTubeやSNSの普及により、医学生向けの無料教育コンテンツが爆発的に増加しました。種々の教材も登場しており、情報の網羅性で価値を持たせるビジネスモデルは成立しにくくなっています。一方で、動画教材の制作・維持には高コストがかかるため、採算を取ることが難しくなった側面もあると思われます。

(3)医学生の「学び方」の変化

近年の医学生は、AnkiやChatGPTとオンライン教材を組み合わせながら、自分に合った方法で学ぶ傾向が強まっています。
講師や一つの教材体系に依存せず、複数のソースを横断して最適化する学習スタイルへとシフトしており、「一方向的に教わる」時代から「自分で構築する」時代へと変化しています。そのため、様々な講座を網羅的に取るスタイルから、自分の弱点を補強するためにピンポイントで講座を取る学生が増加していると考えられます。

3. medu4終了は”終わり”ではなく”転換点”

今回の医師国家試験分野における衝撃的なニュースは、教育業界の衰退のサインではなくむしろ時代の必然的な転換点と考えられます。今後は国試・CBTは大きく次の3つの方向に進んでいくと考えています。

① CBTが示した「思考過程」重視問題への移行

CBT(Computer-Based Testing)は、本来「知識の定着」を確認するための評価として始まりましたが、
近年は単なる暗記確認にとどまらず、思考のプロセスを評価する設問が増えています。

具体的には、現行のCBT制度を踏まえると将来の国家試験では以下のような変化があると考えられます。

  • 単問から、連問型へのさらなる移行
  • 問題文・選択肢の文章が長文化
  • 画像・動画・音声問題の増加
  • IRTスコアの導入

こうした傾向は、知識を”覚えているか”よりも、”どう考えて正答に至るか”を評価する方向へのシフトを示しているかと思います。CBTの導入でハードルが低くなっていることから国家試験でも同様の変化が近年起こることは十分に考えられます。

② 国家試験も近年CBT的思考力を要求する内容に変化

国家試験でも、同様に思考型問題が増加しています。
とくに第115回以降の国試では、以下のような傾向が顕著です。

  • 複数診断を比較させる鑑別型設問の増加
  • 検査・治療の”適応判断”を問う問題
  • 統合問題・総論的出題の増加
  • 画像・波形・動画の比重上昇

これらは、CBTが先行して導入した”統合型出題”の方向性を国家試験が追う形で展開しているともいえます。今後は国家試験のCBT化も合わせて、より臨床に近い設定での出題が増加すると予想されます。

③ CBTと国試の融合へ――試験体系の再設計

文部科学省および厚生労働省では、医師養成課程の質保証の一環として、
共用試験(CBT・OSCE)と医師国家試験との接続強化が検討されています。
特に厚労科研研究班による「医師国家試験CBT化の検討に関する研究」では、
今後の医師国家試験について、CBT方式(コンピュータを用いた試験)導入の可能性マルチメディア問題の採用を視野に入れた試行研究が進められています。

実際、令和6年度には一部大学を対象として「医師国家試験CBTトライアル試験」が実施され、画面上での設問解答や、動画・画像を組み合わせた問題形式の有用性が検証されています。
この試行は、将来的に国試本体を段階的にCBT化していくための準備段階と位置づけられるかと思います。

実際に検討班報告書では、次のような方向性が示されています。

  • マルチメディア問題の導入:静止画像だけでなく、動画・音声を組み合わせた問題を活用する。
  • シナリオ型連続解答問題の試行:一つの症例文をもとに、診断→検査→治療と段階的に問う形式。
  • 解答過程の分析:受験者の思考プロセスをデータとして評価する試み。

これらの検討は、従来の「紙にマークする一問一答型」から、
より臨床現場での判断力やプロセスを評価する方向へと国家試験が進化することを示唆しています。

一方で、完全CBT化の実施時期や実際の運用形態については、現時点では具体的な年次目標は明示されていません。
しかし、試行的取り組みがすでに始まっていることから、今後10年前後のスパンで国試とCBTの融合が現実のものとなる可能性が高いと考えられます。

こうした流れの中で、国試は今後さらに「臨床推論」「判断過程」「安全性評価」を重視する総合的試験へと再設計されるでしょう。その結果、従来のように講義中心で知識を暗記する学習だけでは対応が難しくなり、よりCBT的な思考トレーニングが国試対策の中心になっていくと考えられます。

4. これから求められる視点

今回の出来事が示すのは、「情報を覚えるのみの対策は限界を迎えた」ということでしょう。今後は、知識そのものではなく、それをどうつなぎ、どんな文脈で活かすかが問われるようになります。医学生にとっては、「問題集の知識を覚えるのみ」ではなく、「実臨床においてどのように知識を運用していくか」を意識することが大切になっていくでしょう。

5. おわりに

medu4の新規受付終了は、2010年代的な国試対策モデルの幕引きといえます。
しかし同時に、それは次の10年の始まりでもあります。今後の医学生は、国家試験の形態変化を予測し、より実践的な知識運用を学習の目標にすることが求められるでしょう。

 
著者プロフィール

東大医学部卒講師(現役医師)

略歴:

PMD医学部専門予備校およびCES医師国家試験予備校で講師として指導中。
医学教育・国試対策に関する豊富な実務経験をもとに監修・執筆を担当。