医学生が知るべき初期研修(マッチング)のすべて
初期研修について
本項は臨床研修マッチング、通称マッチングについての記事であるが、マッチングは臨床研修を希望する者と臨床研修病院とのシステムであるため、その前に臨床研修について説明する。
なお、この文章内では、医師国家試験合格後病院で行う臨床研修の事を初期研修と呼称する。医師法第16条の2第1項の規定では、診療に従事しようとする医師は初期研修を受けなければならない、とされている。法律上は医師国家試験に合格し、医籍に登録すれば医業が行えるが、それだけでは診療が行えない。医師として診療を行うには初期研修を行う必要がある。
そのため、多くの医学生は医学部卒業後すぐに初期研修を開始する。現在の臨床研修制度では初期研修は2年間であり、初期研修中にいわゆる「医者としての基礎」を学ぶ。それを学ぶ場が臨床研修病院である。
教育プログラムで定められているのは内科6か月、外科3か月、救急・麻酔科3か月を1年目に行い、2年目に小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療を各1か月研修し、残りの期間を選択した診療科で行うこととなっている[1]。
基本はこのプログラムに従うことになっているが、基本の教育プログラムも病院によりプログラムの差はある。初期研修が病院によってそれぞれ個性があり、加えて、臨床研修病院の定員が医学部の卒業生数に対して過大募集となっているため、必ずしも自分の大学の病院を選ぶというわけではなく、症例数の多い病院や待遇の良い病院を選ぶ傾向にある。
マッチングについて
初期研修を行う病院は前述のように自由に選ぶことができるが、選ぶだけでその病院で研修できるようになるわけではない。どの病院にも採用試験が存在する。
6年時の夏が多いが、多くの病院が学生に対して試験・面接・大学の成績などを要求し、志望する学生を評価する。しかしこの時点でも一般企業のように内定が出て、就職先が決まるのではない。病院と学生の間にマッチング協議会が入り、1人の学生に対して希望した病院の中から1か所の研修病院が決まる。
マッチングのアルゴリズムはマッチング評議会のホームページで公表されているが、このアルゴリズムによると、病院側が高い評価をつけた学生はその病院に入りやすいシステムになっている。つまり、自分の希望する病院で初期研修を受けたいと思うなら、その病院の採用試験において高得点を取る必要がある。
それでは、そもそもどうやって自分の研修したい病院を見つけるのか、その病院で如何にして高評価を得るのかというポイントを今から解説していく。
研修病院の見つけ方
医学部入学の1年次から「この病院で研修をしたい!」という明確なビジョンがある学生は少ないと思われる。多くの学生がCBTやOSCEが終わり、大学病院での臨床実習に入る頃に興味を持ち始め、5年生頃に多くの病院を訪れ、6年生頃に本格的に受験する病院を決定する、という流れがほとんどの様に思われる。
まず、気になる病院の見つけ方であるが、これは学生によってさまざまである。大学によっては関連病院の説明会が開催されたり、医学生・医師の支援サイトでも多くの臨床研修病院が紹介されたりしている。部活の先輩や、実習を通して大学の先生方から情報を得る場合も少なくない。
また、自分の行きたい地方を絞り、そこから検索していくパターンも見受けられた。このように様々な病院の探し方があるが、基本的に情報は多く持っておくに越したことはないと筆者は考える。選択肢が多い方が、より自分の希望に合った病院を見つけられる可能性が高まるためである。
そのためこれらの情報源を組み合わせ、病院を探す。病院探しの基準となるのは、研修プログラムの充実、研修トレーニング施設の充実、インセンティブ、福利厚生、立地など様々あるだろうが、これに関しては自分の優先する要素を念頭に考えると良い。全ての条件が自分にマッチしている病院はなかなか見つからないか、非常に人気があり倍率が高いかどちらかであることが多いため、条件を取捨選択していく必要があると思われる。
興味のある病院を絞るために、「病院見学」は必ず行っておきたい。1日から3日程度、臨床研修病院で実際に実習させてもらえるシステムである。申し込みに特別な条件は必要ないことが多く、忙しい時期や採用時期の直前などで無ければ多くの場合はメールなどで病院に連絡を取り合う事で実習をさせてもらえる。
この病院見学を通して、その病院の研修医に実際に話を聞いてみたり、実際に実習させてもらったりして自分に合っている病院なのかを見極める。
さらに、病院見学は実習形式であることが多いため、実習で自らの優れた医学知識や、医師として必須のコミュニケーション能力をその病院の人にアピールする機会でもある。
そのため、第一志望の病院と決めた病院には、アピール目的で何度も見学に行く学生も多い。一方で、病院見学を行う事が採用試験受験の条件になっている病院もあるため、6年次の採用時期までには情報をしっかり確認し、気になる病院には病院見学に積極的に行くべきであると筆者は考えている。
採用試験について
上記の様にして、実際に自分が研修を受けてみたいと思える病院が見つかったら、採用試験の対策が必要である。採用試験の種類は様々である。医学の試験、小論文、面接などが基本であり、大学の成績やCBTの成績を必要とする病院も存在する。そのため、自分の受けたい病院が何を要求しているかを早めに確認し、準備しておく必要がある。
医学の試験が課される病院では、採用試験の難易度はCBT相当のものから専門医試験レベルのものまで様々である。対策として最も良いのは過去問などを入手できることであるが、大学病院の試験でもない限り過去問を入手するのは難易度が高い。そのため、病院見学の際に実際に働いている研修医からどのような傾向・難易度の試験なのかを聞き、詳細を教えてもらうことで早めの対策が可能となる。
次に、小論文の対策について説明する。基本的な書き方は大学入試や企業の入社試験などの一般的な小論文と同じである。しかし問われるトピックスが医学に関するニュースである事が多いため、最新の時事情報にアンテナを張っておかなければならない。そういう点も大学入試や企業採用試験などの一般的な小論文の対策と同じである。
面接についても、基本的な部分は医学部受験の際の面接と同様である。なぜこの病院を志望したか、大学では何を頑張ったか、将来的にどの診療科に行きたいか、などは多くの病院で問われる基本事項であるため、あらかじめ解答を用意して行くのも良いだろう。地方病院などでは、将来的にその地方で働く意志があるのかを問われる事もある。
大学受験と異なる点としては、面接が採用において大きなウェートを占めている病院も少なくないため、少しでも面接の印象を良くするために、友人同士で受け答えの練習をしたり、元気にハキハキと相手の目を見て答える準備をしたりなどは大切である。
最後に、病院側から「4月からよろしくお願いします」など、内定とも取れる発言があっても、実際には落とされていたという話は非常によく聞く。臨床研修マッチングにおいて、原則的に内定というシステムは存在しないため、そういった病院側の発言を鵜呑みにせず、他の病院もしっかり受けておかなければアンマッチとなってしまう事もままある。
2次募集、3次募集について
アンマッチという言葉が出てきたため、最後に2次募集と3次募集について軽く触れる。ここまで述べてきた病院側の採用試験は、多くの病院では7〜8月に行われる。その後、10月、11月にマッチング結果が発表されるのだが、そこで希望の病院に受け入れてもらえなかった学生は「アンマッチ」となる。
アンマッチのままでは卒業後4月から臨床研修を行えないため、そこから再度病院の採用試験を受験していくことになる。ここから先は病院と学生個人同士のやりとりであり、マッチング評議会を間に介さないため、募集枠が空いている病院を探し、その中で少しでも自分に合った病院を受けていく事になる。これが2次募集である。
3次募集は、病院にマッチングできていたものの、医師国家試験で不合格となってしまった学生がいた場合に、その病院は募集人員に空き枠が出てしまう。そこの空き枠に採用してもらうのが3次募集である。
すなわち、3次募集は、1次募集・2次募集共に自分の希望する病院に採用してもらえなかった場合に行うものである。しかしながら、首都圏では病院の研修枠に対して希望する学生が非常に多いため、ある程度優秀な学生でも3次募集に回っているのを見かける事がある。
最初に述べた通り、初期研修を受けなければ診療が行えないため、3次募集まで回った場合は希望病院の他に、多少希望から外れても自分を採用してくださる病院を探し、受けておくべきではないかと筆者は考える。
[1]「現在の新医師臨床研修制度」、厚生労働省